阻止探偵
九戸政景
阻止探偵
「……ふぅ、今日もコーヒーが美味いな」
ある日の昼過ぎ、事務所の椅子に座りながらコーヒーを飲んでいると、俺の姿に助手が呆れたようにため息をつく。
「……先生、コーヒーばかり飲んでいないで依頼が無い事について悩んでくれませんか?」
「悩んでも仕方ないだろ。無い物は無いし、平和な事が一番だ」
「そうですけどね……仕事の依頼が無いと、私達も食べていけないです。先生ものんびりコーヒーを飲めないんですよ?」
「そうなんだよなぁ……」
とは言っても、本当に依頼は無い。さて、どうしたらいいかな……。
そんな事を考えていたその時、突然俺の頭の中にどこかの山奥にある月明かりに照らされたお屋敷のような場所が浮かび、続けて部屋に二人の人物がいる映像が流れると、その内の一人は相手の事をナイフのような物で刺し、慌てた様子でその場を立ち去っていった所で映像が終わった。
「……はあ、のんびりコーヒーを飲んでたいけど、そろそろ行かないとか」
「もしかして……また視えたんですか?」
「ああ。夜にどこかのお屋敷で刺殺される人がいるようだ。さて、まずはこの近くの山の中に屋敷があるか調べて、あるようだったら警部達に報せてから向かわないとな」
「そうですね。けど、この調子だと今回も事件が起きる前に解決しちゃうので、またお金にはなりませんね……」
「さっきも言ったように平和な。事が一番だ。という事で、今日も阻止探偵の出番といくか」
「はい!」
助手は嬉しそうに返事をすると、愛用のパソコンで調べ物を始め、俺も予知の内容を簡単に書き出していく。
この第六感によって、俺は事件が起きる前にそれを阻止する事で解決する阻止探偵などという異名が付けられているわけだが、助手が言ったように依頼を受けたわけではないから、別に金にはならない。
けれど、俺はそれでも良いと思っている。誰かが悲しんだり憎しみの連鎖が起きたりする前に解決する事で救われる人もいるから。
もっとも、救った相手が必ずしも善人とは限らないが、結局ソイツは何かの理由で過去の罪を償う事になるから、そこまでは俺も関わる必要はない。俺がやるべきなのは、これから起きるであろう事件を阻止する事なのだから。
「……さて、今日もはりきっていくか」
呟きながら自分を鼓舞した後、俺は今回の事件を阻止するためにその準備に意識を集中させていった
阻止探偵 九戸政景 @2012712
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