「制止…」

低迷アクション

第1話

 第六感とは、五感以外のモノ、五感を超えた感覚と言った風に、説明し難いモノとの解釈もある。自身がイメージするのは、金曜か、木曜の洋画劇場でやっていた、高層ビルでテロリストと戦っていた“ツイてない男”が第六感を持っていた子供と出会う話…


あの時の子供の第六感は通常の人(五感のみで生活している人間)に見えないモノを知覚する能力だった。


“親戚の祖母”に似たような話がある。太平洋戦争が終わり、戦いで生き残った復員兵が続々と帰る中、彼女の夫は終戦から1年経っても、家路につく事はなかった。


家族が葬式の準備を始めた、ある朝…


「迎えに行ってきます」


と一言告げた祖母が家を出て、駅への道を歩き始めた。周りが心配する事、

1時間後、隣に夫を連れた彼女が帰宅した。


これは、我が国でよく用いられる言葉で“虫の知らせ”に似ていると思う。


少し前置きが長くなった。上記に記した内容に似た話を聞いたので、ここに記したいと思う…



 「俺は多分、助けられたんだと思います」


友人“I”の体験である。彼の青春時代は酷いモノであった。今で言う所の

ネグレクト(育児放棄)の家庭に育ったIは、その鬱憤を社会へぶつけ続けた。


やがて高校に入学する事もなく、半ぐれのグループの一員になった彼の暴力は、ますます勢いを増し、留まる事を知らない。


警察も街の人も見て見ぬフリを決め込む中、唯一、彼を諭そうとする者がいた。

ホームレスの“ゲンじい”だ。


カップ酒片手に、駐輪場の一部を占拠する彼は、昔はIと同じ境遇だったと言う事を、耳にタコが出来る程、通りすがりの彼にがなった(怒鳴りつけた)後、


「オメェ、俺のようになんな。ってぇーなっちゃならねぇど?」


の台詞で締めくくる。うるせぇなどと、罵倒を返せば、その倍は台詞が返ってくる始末、

正直、厄介だったが、同じ道を通り続ける自分も不思議だった。


「多分、いや、変な話ですけど、嬉しかったんです。酔っ払いで、こ汚ねぇ爺でしたけど、

俺をまっすぐ見て、話をしてくれた。親も教師も、つるんでた仲間も、皆、斜め横から

自分の顔を見る。でも、アイツはまっすぐでした。いつもまっすぐです。だから、あの日は

本当に驚いた」


その日のゲンじぃは、どこか様子が変だった。普段ならば、駐輪場と言う自分のペースから出る事なく、遠巻きの罵声の彼が、Iのすぐ近くまで迫り、


「オメ、今日は悪さすんな?ぜってぇ駄目だ。ダメだど」


ゲンじぃの指摘は当たっていた。彼のつるむ仲間の1人がI達のグループと同じくらい、

たちの悪い別グループと、もめ事を起こした。


幸い、大きな争いにはならなかったが、Iは納得がいかない。単独で殴り込みをするつもりだった。


「1人くらい刺してやるつもりでした。懐にナイフ忍ばせてましたね。だから、ゲンじぃの言葉は少し怖かった」


取り縋るゲンじぃを突き飛ばし、道路を渡る。


「ぜってぇ駄目だ。駄目だ…」


直後に車のブレーキ音が響き、人々の悲鳴や


「救急車ーっ」


と言う声が重なる。Iは後ろを見ずに走り抜けた。


「もう、頭ん中、訳わかんなくなって、気が動転してました。そーゆう時は何やったって駄目です」


殴り込みは失敗に終わった。ナイフを抜く事もなく、相手グループにしこたま殴られたIは

路上に転がされる。


「足にチェーン撒いて、バイクとか車で引きずり回すリンチ(私刑)の流れになったんです」


シンナーでハイの運転手の、上げた奇声が悲鳴に変わった。周りにいるグループのメンバーも絶叫し、逃げ去っていく。地面から顔を上げたIは驚愕に目を見開く。


「ゲンじいがいたんです。それも地面から少し浮いた状態で…アレには驚いた」


宙を移動したゲンじいは彼の前で止まり、お馴染みの台詞を言った後、静かに消える。

それはIの反社会行動が終わった瞬間でもあった。


現在は非行や悩みを抱える青少年の支援職に就いた彼は、仕事に取り組む時、いつも、

ゲンじぃの言葉を思い出す。


“オメェ、俺のようになんな。ってぇーなっちゃならねぇど?”…(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「制止…」 低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ