第六感でズバッと解決☆憑依系アイドルITAKOちゃん!

ひなた華月

憑依系アイドル☆ITAKOちゃん

「はい、それでは、今日もわたしの第六感でズバッと解決! 憑依系アイドル☆ITAKOちゃんでした~」


「――はい、カット!」


 巫女姿のわたしがいつものキメ台詞とポーズと取ったところで、フロアディレクターの快活な声がスタジオに響き渡った。


「お疲れ~ITAKOちゃん。今日もバッチリ決まってたよ!」


 そして、この番組のプロディーサーである岐角野きかくのさんがテンション高めでわたしの前へとやってくる。


「しかし、ITAKOちゃんも、すっかり人気者だねぇ。インスタのフォロワー数も50万人超えててびっくりしたよ」


「いえいえ、これも岐角野きかくのさんが、わたしを抜擢してくれたからですよぉ~。本当に感謝しています」


 ぺこり、とわたしが頭を下げると、彼も満更でもなさそうに「いやぁ~」と声を漏らす。


岐角野きかくのさん。少しいいですか? 次の収録で使うセットの相談がしたいんですけど」


「はいよー、ったく、テレビマンってのは本当せっかちな奴が多いんだよなぁ」


 そんな文句を呟きつつ、「それじゃあ、来週も宜しく!」と言って岐角野きかくのさんは去っていった。


 そのことに安堵しつつ、再び笑顔でスタッフさんたちに挨拶をしながら、楽屋へと戻っていく。


 そして、楽屋の扉を開けると……。



「ふあっ!? ふぃ、ふぃかちゃん!」



 スーツを着た女性が、ケータリングのお弁当を口いっぱいに頬張っていた。



「ふぉふぁふぇりなさい! ふぉうふぉふおうふぉくふぉうぶふぃふぁ?」



「……いや、何言ってるか分からないですよ」


 食べるか喋るか、どっちかにしてほしい。


「……っていうか、マネージャーならちゃんと現場にいてくださいよ。1人だったから、また岐角野きかくのさんに捕まって立ち話に付き合わされそうになったんですよ……」


「ごめんね、千佳ちかちゃん。崎陽軒のシウマイ弁当だったから、つい……」


 いや、言い訳の理由になっていないのだが?


 確かに、崎陽軒のシウマイ弁当は美味しいけどさ。



 彼女は、わたしのマネージャーをしている式屋しきやさんだ。


 少し……いやかなり自由奔放な人である。



 ちなみに、千佳ちかというのはわたしの本名で、式屋しきやさんは現場以外ではわたしをそう呼んでいる。


「……もしかして、千佳ちゃんも食べたかった? あっ、でも大丈夫だよ! お腹空いてたら、私が持って帰ろうとしたお弁当も残ってるから!」


「……いりません。別にお腹空いてないから……はぁ……」


 そう言って、私も彼女と向かいあうように座るが、すぐに机の上に突っ伏すような体勢になる。


「どうしたの、千佳ちゃん。今日の収録、大変だった?」


 暢気な声でそう言った彼女の顔を見ようと、顔だけあげてみると、また崎陽軒のお弁当に手を出していた。


 そのことに対して文句をいう元気もなかったので、わたしは愚痴を漏らすように彼女に告げる。



「……もう無理……限界……」


「えっ? なにが?」



 わたしの絞り出したような声にも、全然緊張感のない様子で答えられたので、つい言い返してしまった。



「だからっ! もう、このキャラ無理なんですっ!!」



「……あー、またその話かぁー」


 しかし、彼女の態度が変わるどころか、今度は彼女が呆れたようにため息を吐いた。


「千佳ちゃん。この前社長とも話したでしょ? 千佳ちゃんは暫く、この路線でいこうって。実際、ITAKOちゃんは大人気だよ」


「ううっ、そうだけどさ……そうだけどさぁ……!」


 このままだと泣いてしまいそうなわたしだったが、それを宥めるように、式屋さんが言った。


「千佳ちゃん。嫌なことでも、一生懸命やるのが仕事だよ」


 そんな身も蓋もないことをいうあたりは、こう見えても20歳のわたしより年上といったところだろうか。


「まぁ、わたしは千佳ちゃんのマネージャー楽しくやってるんだけどね」


 そう言いながら、美味しそうにお弁当を食べ続ける式屋さん。


「でも、何か嫌なの? 千佳ちゃんの知名度もあがってきたし、やりたかったアイドル活動のライブも、今じゃあ転売屋が出るくらい人気になったじゃない」


 なんか新たな問題が発覚したような気がするけど、とりあえず無視しよう。


「だって……憑依系アイドルなんて無理があるじゃないですかぁ……」


「えー、巫女姿の千佳ちゃん、可愛いよ?」


「いや、そういう問題じゃなくて……。式屋さん、わたしの1週間の仕事、言ってみて」


「えっ? 仕事? えっと……」


 式屋さんは、自分のスマホを立ち上げると、そこに書かれているであろう今週のスケジュールを読み上げた。


「まず、午前2時に××町に現地集合の心霊スポットのロケで次の日は心霊スポットで新曲のMVとジャケット撮影をして、またその次の日はユーチューバーの方とコラボで心霊スポットに……」


「心霊スポットばっか!!」


 思わず途中で突っ込みを入れてしまったけれど、ここまで証拠が揃っていれば、十分だった。


「いくらそっち系のキャラだからって、多くないですか!?」


「そうだよね、やっぱ2時に現地集合はキツイよね。うん、スタッフさんに言って、ロケ車出してもらおっか」


 そこじゃないよ! あと、ついでに心霊スポットでMVとジャケット撮影も意味わかんないからね!


「……そもそも、わたしに霊感なんてないのに」


 勿論、今時本気でわたしが霊媒師だと思っている人なんていないだろうけど、嘘を吐き続けていることに抵抗がないといえば嘘になる。



「あ、だったら、私みたいに千佳ちゃんも霊感つくようにしてあげようか?」



「うん、そうしてくれると助か……」



 ……ん?


 今、なんて言った?



「だから、千佳ちゃんも霊感がつけば文句ないんでしょ? だったら、わたしがそうしてあげるけど?」


「…………いや、どゆこと?」


「あれ? 言ってなかったけ? 私、イタコの家系だから昔から霊感あるの」


「そうなの!?」


「ちなみに、千佳ちゃんに巫女服が似合うんじゃないかって社長に勧めたのは私だよ」


「じゃあ、わたしがこんなキャラになったのはお前の仕業か!?」


 怒りのあまり敬語ではなくなってしまったわたしだったが、そんなことは意にも返さずに、式屋さんはわたしに告げる。


「あー、その顔は信じてないでしょう? 私、本当に霊感あるんだよ」


 いや、もうそんなことはどうでもいいくらい、あなたとは徹底的に話したいんですけど。


「分かった分かった。じゃあ、その証拠を見せてあげるよ」


 しかし、勝手に話を進める式屋さんは、わたしにこんなことを言ってきた。


「実は、千佳ちゃんの背後霊がね、ずっと千佳ちゃんと話したいって言ってるんだ」


「は、背後霊……?」


「うん。だから少しの間だけど、私の身体に憑いてもらって、お話してもらうね」


 いや、何を言っているんだ、この人は?


「じゃあ、いくね。はああああああああっ!」


「きゃあ!?」


 だが、次の瞬間、式屋さんは謎の奇声を発したかと思うと、そのままバタンッ! と畳の上に倒れてしまった。


「な、なにこれ! ねえ、式屋さん! 式屋さん!」


 何度呼びかけても、式屋さんは白目を剥いたまま、暫く意識を失ったままだった。


 もし、これがドッキリ番組だったら取れ高は充分だったかもしれないが、プラカードを持った人が楽屋を訪れることはなく、代わりに、またしても急に式屋さんが身体を起こして、わたしの姿を見た。


 しかし、その焦点は、どこかぼんやりとした感じだった。


「し、式屋さん? 冗談……だよね?」


 恐る恐る、そう聞いたわたしだったが、



「千佳!!」



 突然、式屋さんはわたしの身体を強く抱きしめた。


「えっ、えっ?」



「千佳! 私よ、お母さんよ!」



 おかあ、さん……?



「そうよ! こんなに立派になって……お母さん、ずっと心配してたのよ」



 そう言って、わたしを抱きしめてくれる温もりは、確かにわたしが小さい頃、病院のベッドの上から抱きしめてくれた感覚を思い出させた。



「本当に……お母さんなの?」



「……そうよね、信じられないかもしれないけど、私はずっと、あなたの傍で見守っていたのよ」




 わたしの母は、まだわたしが小さい頃に、がんを患って亡くなってしまった。


 それ以来、わたしは父に育てられ、ずっとテレビで見ていたアイドルという仕事を目指して上京したのだ。



 何故、わたしがアイドルを目指したのか。


 それは、入院中のお母さんと一緒にテレビを見ていた時に、ふいに言った、お母さんの一言が起因だった。




 ――千佳も可愛いから、将来は、もしかしたらアイドルになるかもしれないわね。




 多分、お母さんにとっては、本当に何気ない一言だったんだと思う。


 だけど、わたしは初めて、お母さんがわたしに何かを望んでくれたのだと思ったのだ。




「千佳……千佳が頑張る姿を見るのは嬉しいけど、あまり無理しちゃダメよ。お父さんが心配しちゃうから」


 姿は式屋さんのままだったけど、話し方や口調は、わたしの知っているお母さんそのものだった。


「ごめんね、千佳。ずっと寂しい想いをさせて。だけど、私はこれからも千佳とずっと一緒だからね……」


 そう言うと、式屋さんの身体は、また勢いよく畳の上にバタンと倒れる。



「……いたたたた。あっ、どうでした? 私、ちゃんと別人になってたでしょ?」


 そして、今度はすぐに起き上がって、普段通りの式屋さんに戻っていた。


「ちなみにだけど、私って修行不足なのか、幽霊の個人情報までは分からないんだー。女の人だっていうのはなんとなく分かったんだけど、千佳ちゃんが知ってる人だった?」


 相変わらず、緊張感のない様子で尋ねて来る式屋さんに、私は言った。


「……うん、凄く、大切な人」


 そして、私はそのまま、彼女に告げる。



「式屋さん。わたし、もうちょっと頑張ってみる」



 こうして、わたし自身の悩みも、第六感でズバッと解決されてしまったのだった。


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