雨草ユキは会いたい
第42話 プロローグ:雨草ユキ
私、雨草ユキには会いたい人がいる。
その男の子と出会ったのは私が小学生の時だった。私と同い年の男の子、友だちがいない私にとってその男の子と話せた時間はとても楽しかった。
その時から私は絵を描くことがとても好きだった。いつか、絵を描く仕事に付きたいと思っていたぐらい。
だから、その男の子が私の絵を褒めてくれた時は本当に嬉しかった。
イラストレーター。頼まれた絵を描いたり、小説などの挿絵を描いたりと仕事内容は様々。その職業をお母さんから勧められた。
その夢を私はその男の子にも話した。
「私はね絵が上手くなったらいつかイラストレーターになって“雪川花”っていう名前を有名にするよ」
イラストレーターは小説家みたいにペンネームがある。だから、私は自分の名前と男の子の名前、そして初めて会った場所である『川』の感じを組み合わせた名前を作った。
私がその夢を口にすると、その男の子はこう言った。
「いつか、僕にも絵を描いてよ」
私は有名になったら絵を描いてあげることを約束した。
こんな楽しい生活がずっと続けば良いと思っていた。
だけど、その願いは叶わなかった。
その男の子は私に別れも告げずにどこかへいなくなってしまった。
たった一度だけ、私は約束の時間に来れなかった。お母さんが倒れ、看病をしていたら時間がとっくに過ぎていた。
慌てていつもの場所へ行ったけれどその子の姿はどこにもなかった。
あの日ほど泣いた日はないかもしれない。本当に悲しかった。嫌われたのかなと何度も思った。
好きだった子が急にいなくなった。これほど辛いことは後にも先にも経験はしたことはない。
中学生になったときに私は作家デビューが決まった。初めて書いた小説で新人賞を受賞した。お父さんもお母さんも喜んでいた。
ペンネームはどうするかと聞かれ私は悩んだ。あの子に見つけてもらうには『雪川花』と書くほうが良いに決まっている。
だけど、私はその選択をしなかった。その名前はイラストレーターとして、使う名前と約束したもの。他のところで使うわけにはいかなかった。
だから私は『雨草ユキ』をペンネームとした。
この名前もしっかり意味が込められている。雨の日、草の生い茂った場所であったユキ君。
私は未だにその男の子を忘れらない。その男の子以上に好きになれる人が現れなかった。
だから、私はその男の子に会うためにイラストレーターにならなければならない。雪川花という名を見てその男の子、雪村純くんが私に会いに来てくれるように……
秘密の仮面 ~ 憧れの人に会うためには小説家になるしかない 宮鳥雨 @miyatoriame
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