【KAC2022】Forever with you
心桜 鶉
第1話 カウントダウン
視界が霞んでいる。
さらに頭の中が、まるで船酔いでもしているかのように、脳の中を何かとてつもないものがぐるぐると動き回っている。
それが動きまわるたびに、とてつもない嘔吐感を、宮嶋海莉は感じていた。
その感覚はまだ幼い少女には強烈なものだった。
体を動かせない。
海莉は少しでも気分を落ち着かせるために大きく深呼吸した。
――ゆっくり吸って、ゆっくり吐く
――ゆっくり吸って、ゆっくり吐く
海莉は何度も深呼吸した。もう既に何回この動作を繰り返したのだろうか。
少しずつ、気分が楽になってきた。
体が落ち着いてきたのを感じながら、周りを把握するため、重いまぶたを上げる
目の前が赤い。
それに周辺の音がよく聞こえない、いや、聞こえづらい。
――何があったのだ。私はどこにいて、何をしていたのか……
だいぶ楽になってきた体をゆっくり起こし、体勢を変える。
そして少しずつ記憶をたどりながら、思い出していく。
記憶にたどり着くのと同時に、霞んでいた海莉の視界もクリアになっていった。
周辺には誰もいない。
それどころか、街全体が燃えて、赤く染まっていた。
……ッ
――ピピッ、ピピピッ、ピピピッ
けたたましいアラームとともに、海莉は目を覚ました。
頬が少し、ヒリヒリしていることに気がついた。
頬を触ると何故か濡れていた。
ぐっすり眠っていたはずなのに体を休めていないような感覚を海莉は感じていた。
不思議な、悲しくて恐ろしい夢を見ていた気がする。
前にも見たことがある気がしていた。
――そうか、たしか私が小さい頃にも一度見た夢がこんな感じの夢だったな……
確かあのときはまだ――――
「海莉――!起きた?朝ごはんよ!!」
一階のリビングにいるお母さんが叫ぶ。
よく聞こえる。
お母さんの声が大きいからと言うのもあるが、あの不思議な怖い体験と比べると、海莉にとっては、よく聞こえることはとても安心することなのであった。
「起きてるよー今行く!」
海莉はそう叫び返すと、再び目から落ちてきた涙を袖で拭い、どこかソワソワする感覚を払拭するため、洗面台に向かった。
海莉の母、智子は、朝食の準備をし終えると、海莉を待つ間、テレビを見ることにした。
テレビを付けるとちょうど朝のニュースが始まっていた。
「アメリカ航空宇宙局のNASAは昨日、数百メートルの大きさの小惑星が、来月二十日あたりに地球の近くを通過するという予測結果をだしました。
NASAはこの巨大な小惑星を『潜在的な危険』と分類しているとのことです。
会見では『今後、軌道が変化するかもしれませんが、今のところは衝突の危険性は無い』と発表しています。
また、地球の上空を通過する際、観測は可能とのことで、NASAはウェブサイト上で小惑星の軌道と最接近へのカウントを表示する予定で、当日は通過する様子をライブ配信する、とのことです。
今後のニュースにご注目ください」
【KAC2022】Forever with you 心桜 鶉 @shiou0uzura
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