主人公が吐露する心情に、センスを感じる。男にとって、セックスは武勇伝に。女はヤリマンと噂されて、格下げ。たしかに腑に落ちない。主人公の唯は「途中から誰に抱かれているかなんて、どうでも良くなるんだもの」と挿入にもたついているコージに飽きて、自分の胸に触れ始める始末。揶揄する男たちに対しても、強気な姿勢をとる。唯にとって即物的な行為でしかないセックスは、感情と結びつかないまま、過ぎ去る出来事として冷静に俯瞰し、手の中で転がして味わう。こうした諦念が、随所に散りばめられている。それによって、ミチとのさりげないやり取りや会話が、純潔な眩しさをより引き連れてくるのだ。ミチへと抱く感情が、中空を掴むようなもどかしさや、戸惑いとして現れる。それがくすぐったくて、読んでいてとても心地よい。これから先もずっと、ミチの輝きや尊さを保つために、唯はどうでもいい営みを繰り返すんだろうな、という読後感で終わる。ああ、でも欲を言えば、ミチとの話をもっと読みたかったなあ。
(「恋愛ショートストーリー特集」/文=紗倉 まな)