おっさん、第六感〜シックス・センスがくだらなすぎる!

水定ゆう

ラーメン屋の超能力者

 ズルズルッ。ズルズルルッ。

 俺は背脂ギトギトの本格コッテリラーメンを口に運ぶ。歯応えのあるメンマに、家系ラーメン特有の味付けほうれん草。何より最高なのは分厚いチャーシューに、醤油の染み込んだ煮卵だった。


「やっぱここのラーメンは最高だ」


 俺は1人テーブル席に座って、飯を食う。

 やっぱこの時間帯のラーメンは身体に染みるぜ。深夜まで営業してくれてるだけで、マジで神。こんなうめぇのが、ゆっくり食えるのは深夜しかねぇからな。

 家が近所なこともあって、大変助かっている。


「アンタもよく食うなぁ」

「そりゃあうめぇからな」

「アンタ、明日仕事はねぇのかよ?」

「悪りぃな。俺、フリーターなんだわ。無職のな」

「そりゃあニートじゃねぇか、兄ちゃん」

「うっせぇ」


 俺、斎藤光樹さいとうこうき、25歳。今日も今日とて親のスネをかじっているニートだ。いやいや、ニートじゃねぇな。自宅警備員っていう立派な仕事をやってんだよ。


「斎藤光樹君ね。はぁー、アンタもニートかよ」

「大きなお世話だ。って、アンタこそ誰だよ!何で、俺の名前知ってんだよ!」


 俺は目の前の男に怒鳴りつける。

 いつの間にいたのか、俺の目の前にいたのは明らかに俺より年上なおっさんだった。

 40代ぐらいか?パーマのかかった髪に、首からは変な数珠じゅずを巻いてやがる。怪しい宗教団体の奴にしか見えねぇ。


「お、おっさん誰だよ!」

「俺か?俺のことはいいだろ、それよりお前、今日宝くじ買ったろ」

「はあっ!?」


 確かに買ったけどよ、何でこのおっさんが知ってんだよ。

 俺は気持ち悪くて吐きそうになった。


「それな、当たってんぞ」

「はぁつ?明日に何ねぇとわかんねぇだろ、そんなこと」

「いや当たってんだよ。俺の第六感がそう言ってるから、間違いねぇんだ」


 第六感?シックス・センス?何それ、美味しいの?そんなので食っていけたら、どんだけいいんだろうな。

 まあいいや。ちょっくら、このおっさんに付き合ってやるか。


「なぁおっさん、一体いくら当たってんだよ。1億か?5000万か?まさか、100万とか抜かすなよ」

「300円だ」


 俺は飲んでいたスープを吐き出した。

 そんなクソしょうもねぇ事言ってんじゃねえよ!


「おいおいおっさん、そりゃあねえだろ」

「俺のせいにするなよ。アンタこそ、そんな大金がころっと手に入るわけないだろ」

「はぁー、馬鹿馬鹿しい」


 俺は無視してラーメンを食うことにした。

 しかしおっさんはさらに話しかける。


「なぁアンタ、昨日株買ったな?」

「何で知ってんだよ」

「そりゃあ知ってますよ。だって俺には……」

「「第六感があるから。だろ」」


 キモっ、おっさんと一言一句被っちまった。

 何、俺ってまさかこのおっさんと似てんの?そんなの嫌だぜ。


「俺だって嫌だ」

「そりゃ、第六感じゃねぇ!」


 俺の頭の中を読みやがったのか?

 このおっさん、ただもんじゃねえ。絶対に関わっちゃ駄目系だわ。俺のブランドが腐るわ。


「お前はもう腐ってる」

「ラーメン屋で腐るとか言うな!」


 食に対して言ってるような聞こえるだろ。

 ほら、大将がこっち見たよ。いやあー、こう言う奴がいるから、変に刺激しちゃうんだよねー。


「で、株買ったけどよ、それでなんかあんのか?」

「それな。25年後に跳ね上がるぞ!」

「今じゃねぇのかよ」

「今じゃねえよ」


 うわぁ期待して損したわ。

 俺はため息を吐いた。しかしおっさんはまだまだ話を続ける。


「じゃあな、すぐに当たること教えてやるよ」

「なんだよ」

「この店、今日で閉店だぞ」

「はあっ!?」


 そんなわけねえだろ。

 だって、今だってこんなにやってんだ。今朝だって行列で、閉店な張り紙なんて貼ってなかったんだぞ。


「ねぇ大将」

「なんだ」

「ここって、今日で閉店なの?」

「あぁそうだ」

「へぇー……はあっ?」


 一瞬理解が追いつかなかった。

 だけど冷静になってみると、頭の中に疑問符が大量発生する。


「嘘だろ!」

「いやホントだ。悪いな、兄ちゃん」


 そんなのってないぜ。

 俺は崩れ落ちる。しかし気になるのは、この人これから何をするかだ。


「なぁおっさん」

「なんだよ兄ちゃん」

「あの大将、これからどうするんだよ。こんなに流行ってた、ラーメン屋閉めてよ」

「ああそれならわかるぞ。ほれ」


 おっさんが壁を指差す。

 俺は釣られて壁を見ると、そこには貼り紙がしてあった。


「隣町!?」

「そう言うことだ」


 つまりここを閉めて、流行ってる隣町に移動ってことかよ。そりゃあないぜ。

 俺はますます落ち込んだ。

 しかしおっさんはこうも続ける。


「まあいいじゃねえか」

「よくねぇよ」

「そっかー。じゃあ最後によ、アンタにいいこと教えてやる」

「なんだよ」


 もういいよ、そんなの。

 俺は気持ちがどんよりしていた。しかしおっさんは気にせずに告げる。


「俺な、アンタのお父さんの兄貴だから」

「ブッ!」


 俺は吹き出した。

 最後の最後にとんでもねぇかと言い出したよ。じゃあ何?俺ってこの人の血、引いてるの?


「それとな」

「いや、いや、ちょっと待てぃ!」

「いや待たねぇ。アンタさ、ちょいとここの金、払っといてくれよな!」

「はぁつ!?」

「じゃあな!」


 そう言っておっさんはもの凄いスピードで、店を出ていった。

 一体今のおっさんなんだっだ。ってか、あのおっさん何も頼んでねぇじゃん。いや、頼んでるものがあるな。


「水?ボケ薄っ!」


 俺はポカーンとした顔のまま、ラーメン屋に1人放置させられていた。

 ってか、マジであのおっさんが俺のおっさんだったの?嘘だよね。おい!

 そんなぐるぐるした感情のまま、俺は固まっていた。


「いや、待て待て待てぃ!」


 あのおっさん、如何見ても40代だろ。

 俺の親父、今年で50だぜ?ってことは、あのおっさん50以上ってことだろ。ぜってぇ見えねぇ。


「じゃあ、あのおっさんなんなんだよ」


 俺と血が通っている?

 そんなでまかせを聞かされて、俺は頭ん中が真っ白になった。一体全体、あのおっさんは何が言いたかったんだ?てかよ、何で俺の個人情報知ってんだよ。意味わかんねぇ。

 深夜のラーメン屋。伸び切ったラーメンを食いながら、俺は奇妙なおっさんについて考える羽目になっていた。


 皆んなも、こんなおっさんに出会ったら、まずは疑おうな。

 奇妙なことを言うおっさんにはご注意をーーありきたりなオチには、ラーメンを。

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おっさん、第六感〜シックス・センスがくだらなすぎる! 水定ゆう @mizusadayou

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