おっさん、第六感〜シックス・センスがくだらなすぎる!
水定ゆう
ラーメン屋の超能力者
ズルズルッ。ズルズルルッ。
俺は背脂ギトギトの本格コッテリラーメンを口に運ぶ。歯応えのあるメンマに、家系ラーメン特有の味付けほうれん草。何より最高なのは分厚いチャーシューに、醤油の染み込んだ煮卵だった。
「やっぱここのラーメンは最高だ」
俺は1人テーブル席に座って、飯を食う。
やっぱこの時間帯のラーメンは身体に染みるぜ。深夜まで営業してくれてるだけで、マジで神。こんなうめぇのが、ゆっくり食えるのは深夜しかねぇからな。
家が近所なこともあって、大変助かっている。
「アンタもよく食うなぁ」
「そりゃあうめぇからな」
「アンタ、明日仕事はねぇのかよ?」
「悪りぃな。俺、フリーターなんだわ。無職のな」
「そりゃあニートじゃねぇか、兄ちゃん」
「うっせぇ」
俺、
「斎藤光樹君ね。はぁー、アンタもニートかよ」
「大きなお世話だ。って、アンタこそ誰だよ!何で、俺の名前知ってんだよ!」
俺は目の前の男に怒鳴りつける。
いつの間にいたのか、俺の目の前にいたのは明らかに俺より年上なおっさんだった。
40代ぐらいか?パーマのかかった髪に、首からは変な
「お、おっさん誰だよ!」
「俺か?俺のことはいいだろ、それよりお前、今日宝くじ買ったろ」
「はあっ!?」
確かに買ったけどよ、何でこのおっさんが知ってんだよ。
俺は気持ち悪くて吐きそうになった。
「それな、当たってんぞ」
「はぁつ?明日に何ねぇとわかんねぇだろ、そんなこと」
「いや当たってんだよ。俺の第六感がそう言ってるから、間違いねぇんだ」
第六感?シックス・センス?何それ、美味しいの?そんなので食っていけたら、どんだけいいんだろうな。
まあいいや。ちょっくら、このおっさんに付き合ってやるか。
「なぁおっさん、一体いくら当たってんだよ。1億か?5000万か?まさか、100万とか抜かすなよ」
「300円だ」
俺は飲んでいたスープを吐き出した。
そんなクソしょうもねぇ事言ってんじゃねえよ!
「おいおいおっさん、そりゃあねえだろ」
「俺のせいにするなよ。アンタこそ、そんな大金がころっと手に入るわけないだろ」
「はぁー、馬鹿馬鹿しい」
俺は無視してラーメンを食うことにした。
しかしおっさんはさらに話しかける。
「なぁアンタ、昨日株買ったな?」
「何で知ってんだよ」
「そりゃあ知ってますよ。だって俺には……」
「「第六感があるから。だろ」」
キモっ、おっさんと一言一句被っちまった。
何、俺ってまさかこのおっさんと似てんの?そんなの嫌だぜ。
「俺だって嫌だ」
「そりゃ、第六感じゃねぇ!」
俺の頭の中を読みやがったのか?
このおっさん、ただもんじゃねえ。絶対に関わっちゃ駄目系だわ。俺のブランドが腐るわ。
「お前はもう腐ってる」
「ラーメン屋で腐るとか言うな!」
食に対して言ってるような聞こえるだろ。
ほら、大将がこっち見たよ。いやあー、こう言う奴がいるから、変に刺激しちゃうんだよねー。
「で、株買ったけどよ、それでなんかあんのか?」
「それな。25年後に跳ね上がるぞ!」
「今じゃねぇのかよ」
「今じゃねえよ」
うわぁ期待して損したわ。
俺はため息を吐いた。しかしおっさんはまだまだ話を続ける。
「じゃあな、すぐに当たること教えてやるよ」
「なんだよ」
「この店、今日で閉店だぞ」
「はあっ!?」
そんなわけねえだろ。
だって、今だってこんなにやってんだ。今朝だって行列で、閉店な張り紙なんて貼ってなかったんだぞ。
「ねぇ大将」
「なんだ」
「ここって、今日で閉店なの?」
「あぁそうだ」
「へぇー……はあっ?」
一瞬理解が追いつかなかった。
だけど冷静になってみると、頭の中に疑問符が大量発生する。
「嘘だろ!」
「いやホントだ。悪いな、兄ちゃん」
そんなのってないぜ。
俺は崩れ落ちる。しかし気になるのは、この人これから何をするかだ。
「なぁおっさん」
「なんだよ兄ちゃん」
「あの大将、これからどうするんだよ。こんなに流行ってた、ラーメン屋閉めてよ」
「ああそれならわかるぞ。ほれ」
おっさんが壁を指差す。
俺は釣られて壁を見ると、そこには貼り紙がしてあった。
「隣町!?」
「そう言うことだ」
つまりここを閉めて、流行ってる隣町に移動ってことかよ。そりゃあないぜ。
俺はますます落ち込んだ。
しかしおっさんはこうも続ける。
「まあいいじゃねえか」
「よくねぇよ」
「そっかー。じゃあ最後によ、アンタにいいこと教えてやる」
「なんだよ」
もういいよ、そんなの。
俺は気持ちがどんよりしていた。しかしおっさんは気にせずに告げる。
「俺な、アンタのお父さんの兄貴だから」
「ブッ!」
俺は吹き出した。
最後の最後にとんでもねぇかと言い出したよ。じゃあ何?俺ってこの人の血、引いてるの?
「それとな」
「いや、いや、ちょっと待てぃ!」
「いや待たねぇ。アンタさ、ちょいとここの金、払っといてくれよな!」
「はぁつ!?」
「じゃあな!」
そう言っておっさんはもの凄いスピードで、店を出ていった。
一体今のおっさんなんだっだ。ってか、あのおっさん何も頼んでねぇじゃん。いや、頼んでるものがあるな。
「水?ボケ薄っ!」
俺はポカーンとした顔のまま、ラーメン屋に1人放置させられていた。
ってか、マジであのおっさんが俺のおっさんだったの?嘘だよね。おい!
そんなぐるぐるした感情のまま、俺は固まっていた。
「いや、待て待て待てぃ!」
あのおっさん、如何見ても40代だろ。
俺の親父、今年で50だぜ?ってことは、あのおっさん50以上ってことだろ。ぜってぇ見えねぇ。
「じゃあ、あのおっさんなんなんだよ」
俺と血が通っている?
そんなでまかせを聞かされて、俺は頭ん中が真っ白になった。一体全体、あのおっさんは何が言いたかったんだ?てかよ、何で俺の個人情報知ってんだよ。意味わかんねぇ。
深夜のラーメン屋。伸び切ったラーメンを食いながら、俺は奇妙なおっさんについて考える羽目になっていた。
皆んなも、こんなおっさんに出会ったら、まずは疑おうな。
奇妙なことを言うおっさんにはご注意をーーありきたりなオチには、ラーメンを。
おっさん、第六感〜シックス・センスがくだらなすぎる! 水定ゆう @mizusadayou
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