カレーを食べながら

葉月りり

第1話

あ、今日はカレーだ!

玄関前がもうカレー。


「ただいま」


「おかえりー、今日はカレーだよー」


「やったー! そろそろ食べたいと思ってたんだ」


「でしょー、そろそろ食べたいんじゃないかなーと思ってたんだ」


「おー、いい勘してるなー。俺のことなんでもわかってらっしゃるぅー」


「あはははは、お風呂まだ洗ってないんだ、よろしくー」


 いつも一緒にいたいねと始めた生活は、2人でいる楽しさと便利さと不便さを少しずつ調節してきて、もう一年半だ。俺には奈緒子のいるここが我が家、一番安らげる場所になっている。親にも言われるが、自分もそろそろ結婚かなと考える。多分、奈緒子も考えていると思う。この間、奈緒子が親と電話しているのを少し聞いてしまった。奈緒子も親にせっつかれているようだった。プロポーズすれば、きっと「うん」と言ってくれる…と思う。


 プロポーズするとしたらやっぱりどこかいいレストランを予約して、いや、海の見える公園とかか? スカイツリーに登って夜景を見ながら、あ、もうすぐ桜が咲く、満開の花の下なんてのもアリか?


「いただきまーす。……うまい! やっぱ奈緒子のカレーはうまい!」


「いつもと同じ、普通の市販のルーを何種類かブレンドしただけだよ」


「んー、でも、うまいんだもん。この肉も野菜もゴロゴロしてるのがいい。友達に野菜がデカく切ってあると食べる気なくなるってやつがいるけど、俺はデカく切ってある方が好きだな」


かちゃかちゃ、スプーンがリズミカルに動く。


「玉ねぎをね、煮込み用の薄切りと具にする角切りとふたつ用意して、具用は出来上がり直前に入れてサッと煮るだけにするの。私も野菜の味がよく感じられる方が好きだから」


「俺には奈緒子のカレーが1番だな」


「えー、カレーが?」


「あ、他のもうまいよ。ロールキャベツもいいな。ポテトサラダも。餃子も、ぶり大根もサイコー! あ、あと、揚げ物買ってきてもキャベツを丁寧に千切りにしてつけ合わせてくれるの、すごく嬉しい」


「あははは、まるで料理が気に入って一緒にいるみたい」


「え?」


スプーンがとまる。


あれ? なんだコレ。なんか笑い声たててるけど、目が笑ってない感じ。もしかしてここ、ちゃんと言わなきゃいけないとこか?


「そうじゃないよ。奈緒子はさ、明るいし、優しいし。えーと、ケンカしても次の日にはおはようって言ってくれるし、勘がいいからよく気がつくし、それから、なんかわからないけど、一緒にいると安らぐんだ」


「うふふふ。ふーん」


「なんだよ、恥ずかしいこと言っちゃったじゃないか。そっちこそ、何が気に入って一緒にいるんだよ」


「私? えーと、私はねー、この人とならうまくやっていけるっていう、第六感?」


「なにその都合のいい言葉。ズルくね」


「えー、あなただって、今、なんかわからないけど安らぐって言ったじゃない」


かちゃ、かちゃ…


「…結婚、しようか」



おわり



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カレーを食べながら 葉月りり @tennenkobo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説