追放された【第六感】スキル持ち冒険者ですが、これからはパーティーのためじゃなく自分の人生に第六感を使います!

宇枝一夫

汝、己に従い、己の道を歩むがよい

 古来より、異界へつながっていると噂されるダンジョンが数多く存在する《ボイド山》。


 そのふもとの街、コトンにある冒険者ギルドの一つ、《白い山脈亭》のテーブルでは、パーティーのリーダーである青年戦士が、目の前に座る射手の男に向かって冷たい声を放っていた。


「おいロック! 今日限りでおまえはクビな!」


「そんな! 僕は【第六感】スキル持ちなのに……なんで?」


 【第六感】とは、危険やモンスターを察知したり、高価な宝物の場所を探査するスキルであり、聖力や魔力を消費せず、体力や気力が続く限り何回でも使えるのである。


 なおかつこのスキル持ちは数が少ないため、どこのパーティーからも引っ張りだこ……


 ……な時代もあった。


 今では【第六感】スキル持ちはあくまで


『道の分岐で棒を倒したり、コインの裏表よりマシ』


な程度の扱いであり、スキル持ちといえどもロックは射手となり、弓でモンスターを攻撃していた。


「ロック、おまえの選んだダンジョンや分岐の先の道は、確かに危険なモンスターはいないがお宝もしょぼい、いやガラクタだ。俺たちの後で反対側の通路に潜っていった奴らが、どでかいお宝をゲットしたのはおまえも知っているだろ?」


「で、でも反対側の通路は、僕たちのレベルじゃ荷が重いとスキルで”感じて……”」


「いいか、俺たち冒険者は一攫千金を求めているんだ。そのためには命だってかける。安心安全な冒険なんぞまっぴらだ!」


「……」


 リーダーの正論にロックは無言になる。


「なあロック、確かおまえは学者になりたいんだったよな。ダンジョンに潜るよりも王立学院を目指して勉強した方がいいぜ」


 大きなミスをしていないのにクビにするのはさすがに周りの目もあるからか、諭すようにリーダーは語りかける。


 そんな中……。


”ゴゴゴゴゴゴゴ!”


 ボイド山が震え、コトンの街も揺れる。


「《シャッフル》だあ!」


 ボイド山は不定期でシャッフルと呼ばれる地震が起き、それによって古いダンジョンや通路が埋まり、新しい通路やダンジョンが現れるのである。


 なおシャッフルは断続的に七日程度続き、しかも必ず夜に起こるため、日が暮れる前に冒険者は街へ戻るのである。


「ヒャッホ~! 新しいお宝のお出ましだぁ~!」

「マスター! 酒だ酒だぁ!」

 

 各テーブルでは前祝いとばかりにあちこちで乾杯が起こる。


「……というわけだロック。俺たちは早速明日の朝にはボイド山へ潜るからな」


 席を立ったロックは、喧噪に押されるようにギルドを後にした……。


 翌朝、ギルドへ顔を出すと、昨夜の騒ぎが嘘のように冒険者がいなかった。


 そこへ看板受付嬢のルカが、ロックに声をかけてきた。


「ロック! いいところへ! 街の人からの依頼がたまっているんだけど、お願いできるかなあ~? みんなボイド山へ行っちゃったのよ」


 ルカは初見の男性冒険者が必ず声をかけるほどの美しい容姿とエッチな体を兼ね備えているが、ダンジョンどころか街の中ですら迷子になるほどの方向音痴である。


 そのため、裏街道に迷い込む度に荒くれ冒険者たちに声をかけられていた。


 もちろん、そのエッチな体を味わうために……。


 迷子になったルカを見つけたロックはすぐさま弓を放つと彼らを追い払い、おかげで弓のスキルが上昇したほどである。


『ルカ! 裏街道へ入っちゃいけないってあれほど!』

『さすがロック。よくあたしを見つけられたね』

『そ、そりゃ、【第六感】スキルを持っているから……』

『ふぅ~ん……』


 そんなルカは依頼の前金とばかりに、依頼書と共に胸の谷間を見せつけていた。


「あ、そのネックレス、まだつけてくれてるんだ」


 しかしロックの目は、ダンジョンで拾った一銭の価値もないネックレスに向けられていた。


「う、うん、せっかくプレゼントしてくれたからね」


 ルカにしてみればネックレスの”話題に触れる”よりも、その下のモノに”直に触れて”欲しかったのだが……。


「……依頼受けるよ。ちょうどフリーになったし、気分転換になるからさ」

「本当! やったぁ!」


 シャッフル開始から九日後の夜、街の人の依頼を大方片付けたロックは、ギルドのカウンター席に座ると、受付の仕事が終わったルカが隣に座った。


 姿こそ受付嬢のままだが、髪型から唇の紅まで、あきらかに“気合い”が入っていた。


「ロック、お疲れ様」

「ルカもお疲れ様」


 食事と軽いお酒でたわいのない会話をする。


「そういえば明日ぐらいに、王立学院の調査隊がボイド山を探索するみたい。シャッフル期間が終わったしね」


「そうなんだぁ~。僕もいつかは王立学院に入学して調査隊へ加わりたいなぁ~」


 遠い目をして自分の夢を語るロックの顔を、ルカは頬を染めながら眺めていた。


「……ねぇ、街の人の依頼は終わったし、ロックはシャッフル後のボイド山を探索しないの?」


「そうしたいけど、もう誰もパーティーを組んでくれないから……」


「で、でも、学者様は魔術や戦闘スキルを持っていなくても、危険を冒してまでダンジョンを探索するんでしょ?」


『いいか、俺たち冒険者は一攫千金を求めているんだ。そのためには命だってかける。安心安全な冒険なんぞまっぴらだ!』


 ロックは、自分を追放したリーダーの言葉を思い出す。


「ロックには自分のやりたいことの為に、【第六感】スキルを使って欲しいの!」


 ルカはロックを抱きしめる。


「ゴメンねロック。私が方向音痴じゃなければ、一緒にパーティー組めるのに……」


「いいよそんなこと。僕にとってルカは側にいてくれるだけでいいからさ……」


「えっ!?」


 ルカの心臓が高鳴る。


「……ルカ。今夜、僕の部屋に来てくれないかな?」


(キタァ---!)


 ルカの魂が歓喜の叫びを上げ、同時に“乙女の計算”がフル稼働する!


(よかった。《彼氏イチコロ下着》を着けてきて……。でもロックの部屋って変な仮面や肖像画にモンスターの石像が所狭しと置いてあるからなんか落ち着かない……いやむしろあたしからベッドに押し倒せばロックしか目に入らないし、奥手なロックにはむしろこれくらい強引な方が……じゅるり)


「この前の探索で見つけたアイテムに、【呪い判定】をお願いしたいんだ。もちろんお礼は弾むからさ」


「……うん、わかった」


 ギルドの受付嬢は呪いのアイテムを受けとらないよう、【呪い判定】のスキルを持っているのである。 

  

 ― 翌日 ―


「行ってくるよルカ」

 迷いが吹っ切れたロックは、爽やかな顔でルカに挨拶する。


「行ってらっしゃいロック。気をつけてね」

 違う意味で目の下にクマができたルカは、精一杯の笑顔でロックを送り出した。


 ― ボイド山 ―


 ロックは新しくできたダンジョンの地面を調べると、多数の足跡があった。


「やっぱり近場のは既に探索されたか。山の裏手に行ってみよう」


 【第六感】スキルを使い、ダンジョンの入口を探すも見当たらなかった。


「確かこの辺で反応が……ん? あの岩の後ろ? そうか、岩が影になって誰にも見つからなかったんだ。ようし! いくぞ!」


 恐怖と緊張、それを上回る勇気と探究心が、ロックに力強い一歩を踏み出させた。


「すごい! まっさらなダンジョンだ! おっと、マッピングしないと」


 そして分岐点に到達すると


『己の進む道を示せ!』


【第六感】のスキルを発動させた。


「よし! こっちだ!」


 マップを書きながら、スキルの示す道をひたすら進む。


 ダンジョンの入口まで戻ると、すっかり日が暮れていた。


「すごい! これだけ歩いたのにまだまだ先がありそう! 明日も夜明けとともに……」


 そこへ何者かがロックの地図をひったくった。


「えっ!?」

「ようロック! ”ひさしぶり”だなぁ! 泳がせておいた甲斐があったぜ」


 地図を手にしたのは前のパーティーのリーダーだった。

 しかもかつての仲間の他に、荒くれ冒険者を十人以上引き連れていた。


「か、返して!」

「俺は気づいちまったんだ。お前が選んだ道と反対側へいけば、お宝ザックザックってな」


「で、でもここはさっき見つけたばかりのダンジョンだから、どんな危険が……」


「だからこうして仲間を募ったのさ。今日は十日目でもうシャッフルはおきねえ。しかも他の冒険者は街へ戻って邪魔は入らねぇ。野郎共! 今夜は徹夜で探索するぜ!」


「うおおぉぉ!」


 冒険者達はロックに目もくれず、一目散にダンジョンへ潜っていった。


 すると……。


"ゴゴゴゴゴ!"


「そんな! 次のシャッフルがたった三日後に起きるなんて!」


『うわあぁぁ!』

『助けてくれぇ!』

『ぎゃあああぁぁ!』


 冒険者たちの絶叫とともに、ダンジョンそのものが山の中へ飲み込まれていった……。


 重い足取りでギルドへ戻ったロックを、慌てたルカが出迎えた。


「ロック! 王立学院の学者様が、あたしのペンダントを見て……」


「君ぃ、これをどこで手に入れたのかね!?」


 学者の話によれば、ペンダントは異世界をさまよう伝説の国家、《ミレニア国》の品だという。


「まだ他にも持っているのかね!?」


 ロックは学者を家に招き入れ、ダンジョンで手に入れたアイテムを披露し、自分なりに調べたノートを差し出した。


「こ、これを君一人で! ぜひ明日の探索隊に加わってくれないか?」


 翌日、探索隊に加わったロックは【第六感】スキルで道を選び、その先には必ずといっていいほどミレニア国の品がある部屋があった。


 学者の説によれば


「どうも君のスキルは『一番欲しいもの』を思い浮かべると発動するみたいだな。”ダンジョンの中では”、アイテムだね……」


 そして学者の推薦により学士となり、王立学院の制服を身に纏ったロックは、花束を抱えギルドのカウンターに立つ。


「る、ルカ。ぼ、僕と一緒に王都へ行って……一緒に暮らさないか?」


「……教えてロック。それって、あなたの【第六感】のスキルがそうさせたの?」


「違うよ! き、君が、大好きだから!!」


 カウンターを飛び越えた受付嬢は、目の前の頼りない学士に向かって体を預け、唇を重ねた。


 学士もまた、力強く受付嬢を抱きしめた。


……もう二度と、大切な人が迷子にならないように。

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追放された【第六感】スキル持ち冒険者ですが、これからはパーティーのためじゃなく自分の人生に第六感を使います! 宇枝一夫 @kazuoueda

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