同志の声が聞こえる

fujimiya(藤宮彩貴)

脳内変換はお手のもの

 なんでこんな超感覚がこの身に備わってしまったのだろうか、俺は自分を恨んだ。

 といっても自分で選んだ能力でもない。小さいころから、なんとなく身についたもの、である。


 そうしなければ生きていけなかった。


 学校では教師がみんなに言うことを、俺はいつも自分なりに脳内で変換しなければならない。たいがいクラスにひとりしかないので、周囲は俺に合わせることや確認することなど一切なかった。

 だから自分で考える。ほかのやつらは右手で持つから、自分は―――


 そう、俺は左利きだ。

 日常生活のほとんど左手メインで過ごす、マジガチハードな左利きである。


 器用だね(いやこれ普通だし

 よく字が書けるね(字書きには右も左もないし

 いいなあ、かっこいい(やー……少数民族で肩身狭いのでやめておいたほうが


 行儀が悪いとまで言われたことがある。

 矯正されて苦しんだ同志も多いと聞く。


 俺の母親は「利き手を無理に矯正すると性格が歪む」と耳にしたとのことで、特になにもしなかったらしい。俺は「左」のままで成長した。

 けれど、学校や社会ではやっぱり苦労を重ねた。

 世の中で使う道具のほとんどは、当然ながら右手仕様。手をクロスして使うのは当たり前。左右逆転させたり、裏返したり。歪むにはじゅうぶんの環境だった。

 便利な世の中なのに、使いづらいものを使いこなそうと俺たちは日々奮闘している。おかしな行動に見えるだろうが、あたたかく見守ってほしい。


 ほんと頭にくるのが、「テーブル付きの簡易椅子」だ。会議や記者会見なんかで使われる椅子で、折り畳み式のテーブルが右側からにょきっと出てくるアレ。普通の人はこの椅子&テーブルを普通に違和感なく使うだろう。テーブルは椅子につながっていて省スペース、右肘も置ける便利な仕様になっている。

 しかし! この椅子を左利きの人間が使おうとすると、左腕が宙ぶらりんになる。テーブルも体正面の右半分ほどしかカバーしないので、左利きがこのテーブルでメモを取るとすると左半身ががら空きになるので体を右に傾けなければならない。この使いづらさは異常。誰だこんな椅子を開発したのは。全世界の左利きに謝れ。


 はさみ、スープ用のお玉、自動販売機、ミシン、鉛筆やボールペンに書かれているロゴや注意書きも左利きはいつも逆さに読んでいる。洗剤などの商品パッケージも常に裏面を見て使っている。


 だから、左利きの人間に会うと、心底同情する。

 お前も苦労したよなって、声をかけたくなる(かけないけど)。肩をたたき、手を取り合いたくなる(しないけど)。

 そのとき、まじで通じ合うような感覚を覚えるんだ。

 左利きどうしにしか分からない、同胞感。

 左利きは、出会った瞬間、心と心で会話できている。これは第六感と呼んでいいと思う。年齢や性別、立場は違えど、そんなの瞬時に氷解できる一体感がある。どうだ、右利きには一生分かるまい。


 個性といえばそれまでだが、俺たちはあまりにも孤独だ。


 ゆえに、無意識に左利きを探しているのかもしれない。

 同じ枷を背負った者を。


(了)




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