虫の知らせ

高岩 沙由

明け方の夢

 これは私が体験したお話しです。


 どのくらい前のことかは内緒なのですが、当時、同棲している彼がいました。


 彼は年上の社会人で付き合って4年程経っていました。


 その時の私は母親から、給料もらっているのだから、早く出て行けと言われていたのですが、一人暮らしできるほどの貯金がなく、彼が実家から離れ一人暮らしをしていたので、彼の家に転がり込む形で同棲していたのです。


 なんやかんや、彼もいい人で、半ばあきらめて結婚するか、という話しも出ていたので、時折、彼の実家に行くこともありました。


 彼の実家は湖の近くの平屋の家に住んでいまして、お父様は亡くなっており、お母さまと可愛い柴犬がいました。


 柴犬はなつっこくて賢くてかわいくて、彼の実家に帰るたびにボール遊びをしたり、彼と一緒に散歩に行ったりしていました。


 あれは、たぶん、11月の頃だと記憶しています。


 その日もいつものように眠りについたのですが、夢で夜明けの風景が見えて、彼の実家のわんちゃんの名前だけが聞こえてきました。


 その瞬間に目を覚ましたのですが、何だろう、と考える間もなく、電話が鳴りました。


 外を見ると明るくなり始めの頃で、彼が起きて受話器をとると、彼の実家からでした。

 

 明け方の5時頃に実家からの電話、ということで、何事かと思っていたら、先ほど、わんちゃんが息を引き取った、という連絡でした。


 布団の上でぼんやりと、先ほどの夢は、このことを知らせてくれたのか、と驚くと共に、もう遊べないんだな、と悲しくなりました。


 KACのお題でなければ、誰にも言わなかった、私の虫の知らせのお話しでした。

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虫の知らせ 高岩 沙由 @umitonya

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