第16話

 神社に近づくと、屋台の光が煌々と周辺を照らしていて、近所の人達が集まりだしていた。


 大人たちは屋台の焼きそばや焼き鳥なんかをあてに酒盛りを、小中学生は買った食べ物をシェアしながら談笑している。どこを見ても誰もが楽しそうに見えて、なんだかこっちまで温かい気持ちになる。


 隣を見るともう待ちきれないとウズウズしている雪姫の姿が。今だったらふんふんと振られる尻尾が見えそうだ。


 こんな状態で待たせるのも流石にかわいそうなので、俺たちも早速向かう。

 最初に雪姫は焼きそばの屋台に目を付けたようだ。さっきまでもキラキラしていた表情が一層輝いて見える。


「……とりあえず焼きそばでも買うか?」

「……うんっ!」


 憎まれ口の一つも叩くことなく、元気な返事が一つ返ってきた。夏祭りのマジックは人をここまで変えてしまうのか……。


 貰ったお札を握りながら、屋台のおっちゃんに話しかける。


「すいません。焼きそば2つ下さい」

「あいよー。……ん?もしかして、真君か?」

「は、はい。そうですが……」

「そうかそうか!でっかくなったな~。功さんと吞んでるときにあいさつした以来か?覚えてなくてもしょーがねーな」


 遠い記憶を掘り起こしていくと、じいちゃんと酒を飲んでる所を思い出せなくもない……?といったレベルだ。俺にとってはほとんど面識が無いに等しい。


「祖父がお世話になってます」

「いやいや、そんな固くなんないでくれ。それにしても本当に久々だなぁ~。今はもう高校生か」

「高校二年生になりました」

「そりゃデカくもなるわな。一緒に来てる美人さんは彼女か?」

「……いえ、ただの友人です」

「じゃあこれからか!他の男のとこ行っちまう前に、しっかり手綱握っとけよ」


 この人は今少し話しただけでそんなに悪い人では無いと分かるが、こうやってすぐ下世話な話に持ってかれるとこっちも困ってしまう。田舎っぽいこういう会話が苦手だから、祭り自体そんなに乗り気じゃなかったんだ。

 取り留めの無い話を切り上げると、商品を受け取って雪姫の元へと戻る。

 それだけで表情がさらにパッと明るくなる。

  

「これが、祭りの焼きそば……。いただきます!」


 そんな反応をされると作ったわけでもない、俺まで嬉しくなる。さっきのおっちゃんもさぞ嬉しいだろう。

 

「こんなに美味しい焼きそば初めて食べた……!」


 味は絶対に市販の物の域を超えてはいないだろうが、一口一口褒めちぎりながら口へと運ぶ。キャンプで焼く方が肉はうまい、とか言っちゃうタイプだな。

 一人で来るよりは、じいちゃんと来るよりは何だかんだ楽しいなんて考えながら、時間は過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

専族メイドが来たら、友達100人出来るかな? 沼澤里玖 @2ryukatanso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ