第15話

 迎えた夏祭り当日。

 俺はなんだかんだ言って緊張していた。

 友達と夏祭りに行く事自体ほとんど無かったうえに、相手は女性だ。いくら同じ家に住んでいて、飽きるほど言い合いをしている相手でもだ。

 それに……縁側で今か今かと待ちわびた様子の雪姫に目をやる。

 黒を基調にした生地には、壮麗な牡丹が美しく咲く、パッと目を引く華やかな浴衣を身にまとっている。黒は地味にもなってしまうが、雪姫は大人っぽいエレガントな着こなしをしている。


「……?いつまで見てるの?」


 視線を感じたのか、怪訝な顔をして睨まれている。

 思わず見惚れてしまうほどの美しさで少しの間目を奪われていたが、そんなに俺に見つめられるのが嫌だったのか。そんな奴と今からお前はデートをする事を忘れた訳じゃあるまいな。


「……どうせ、似合ってないんだからジロジロ見ないで……」

「は?何言ってんだ。そこまで着こなしておいて、似合ってないなんて言ったらどれほどの人間が敵に回るか考えろ」

「味方じゃなくて!?似合ってない浴衣を着ている私を更に追い詰めるなんて……日本はいつからそんな冷たい人間であふれ返ってしまったの……?」

「そこまで言うか……。充分キレイだし似合ってるよ」

「ふぇっ?」


 間抜けな声を出したかと思えば、顔を赤らめて視線を泳がせている。

 この美貌を持ちながら、今まで異性に褒められた事はほとんど無かったのだろうか。そんな事があるのか?以前プールに行った時に男性に対して良い印象を持っていないと話してくれたが、称賛される所か男性との関りも無かったのだろう。

 こんな面白い反応をみせてくれるのだから、もっと暇つぶし程度に褒めて反応を楽しんでやりたいぐらいだ。


「二人ともおしゃべりもいいけど、そろそろ出ても良いんじゃないか」


 腕時計で時間を確認すると、6時13分を指している。少し早い気もするが、夕食無しで買い食いをする訳だし、今日に限っては早く着きすぎても問題は無いだろう。


「それと、ほい。二人で分けて使ってくれ。ついでに爺ちゃんになんかツマミも買ってきてくれ!」

「……買ってくるけど、酒はほどほどにしてくれよ……。」


 小遣いとして2,000円を手渡されたが、懲りずにツマミを買ってこいと功はせがんできた。自分の体のことは自分が一番よく分かると豪語していたが、それなら医者なんて職業はいらないわけで。百薬の長なんて言われる酒に蝕まれた祖父を救えるのは俺しかいないと、真は決意を新たにした。

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