第14話

「おう、おかえり真。凪原さんもおかえり」

「ただいま」

「ただいま帰りました」


 墓参りを終えて、家に帰るとじいちゃんが畑でトマトやナス、キュウリを収穫していた。今年74歳を迎える功は、まだまだ若さを感じさせる筋肉質な腕に取った野菜を抱えながら、額に滲む汗をぬぐっている。


「ちゃんと挨拶できたか?」

「あぁ……口うるさく言われる前に切り上げてきたよ……」

「なんだぁ……折角なんだからどれだけだって喋っておけばいいんだ。それとも……隣の彼女が気になったか?」

「い・・功さん!!そういう事は何も起こってないと言ったじゃないですか!」


 知らないところで二人は連絡をとっているようだ。雇い主への連絡はあっても可笑しくないが釈然としない。

 余計な事を口走っていない事を願いたい。

 二人を余所目に先に家に上がろうとすると、回覧板に挟まれたポスターを見つけた。それは、近所の神社で開かれる夏祭りの案内だった。

 夏祭りは近隣住民だけが訪れるようなもので、町内会の人たちが屋台を出してくれる小規模のものだ。最後に行ったのは、小学生ぐらいの頃だと思うがそれなりに楽しんでいた記憶がある。


「おっ、お前も久々に行きたくなったか」


 気づくと雪姫との立ち話を終えていた功がのぞき込んできた。


「気分が乗ったら。わざわざ行きたいと思うほどのクオリティーじゃないしな」

「それでも案外楽しいもんだぞ。夏の訪れを感じれるし、ビールも家で飲むよりも何倍もうまく感じるしな!」

「医者からアルコールは控えろって言われてたろ……」


 今年も懲りずに夏祭りを楽しむ気満々だったようだ。俺が手綱を握ってやらないといけないと思うと今から気分が重い。


「へぇ~、夏祭りか……」

「なんだ行きたいのか?」

「……予行演習その2,夏祭りに行こう~」

「そこまでして行きたいか……」

「い、今までは弟と妹がまだ小さいから、遠慮してたのよ……」


 弟妹がいることはたった今知ったのだが、それよりも雪姫の表情の方が気になってしまう。

 どれほど期待しているのか知らないが、そんなに悲しそうな顔をしなくてもいいだろ……。断ろうとしているのが申し訳なくなってくる。


「ちょうどいいな~!折角なんだから美人さん侍らせて、デートでも楽しんで来い」

「だ、だからそういうのじゃ無いって……」

「そうか、デートなら行ってみてもイイな」

「はっ?!?!」

「デートで夏祭りだなんて、選ばれし者達のみに許されし行為……」

「さっきまで否定的だったくせに……!」


 じいちゃんの冗談に乗ってみたが、存外いい反応をしてくれた。

 どんな反応をするかなんてほとんど分かり切っていたが、やはり面白いな。赤ら顔であたふたする雪姫を見ると少しばかり優越感に浸ってしまう。


「で、どうする?デートでもしにいくか?」

「……しに行きましょう……。彼氏みたいに食べ物とか奢ってもらって、デート気分でも味わいましょ?」

「そりゃ、いい!しっかりエスコートしてやるんだぞ!」


 俺の肩をバンバン叩きながら笑う功だけが、心から楽しそうだ。


 そんなこんなあって、リア充に一歩近づくべく夏祭りデートの施行が決まった。

 要した時間はわずか20分で。

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