第13話
少し大きな荷物を持ちながら、二人で目的地へと向かう。
10分ほど歩くと、祖父の家の裏の墓地についた。当然隣にいるのは祖父、ではなく雪姫だ。お盆ぐらい自分の都合を優先してほしかったが、
「特に予定はないから別にいい」
と一蹴されてしまった。家族との折り合いが悪いのかも知れないが、少しずつだが築いてきた関係を崩したくなかったので、これ以上の詮索はやめておいた。
それにしても、先ほどから他の墓参りを終えた人達からの視線を集めすぎている。雪姫と暮らし始めて幾分慣れてきたと思っていたが、それでもなんとなく居心地が悪い。墓石がズラッと並ぶこの場所では尚のこと目立つ。気にせずに進んでいると、西条家の墓の前にたどり着いた。
「……アンタは誰にお参りするの」
「……両親と妹だ」
遠慮しがちに雪姫が尋ねた。彼女の気遣いをあまりにも感じてしまい、俺も緊張しながらその言葉を紡ぐ。今まで聞かれなかったから黙っていただけだが、わざわざこうして聞かれると空気が重くなってしまうのなんて分かり切っていた。だからこそ、墓参りは祖父と一緒か、一人で来ると決めていた。
「……意外と誰だって辛い過去ぐらい持ってるのよね……」
その言葉は、俺に同情するようでもあり、自身を顧みるようでもあって。
「お前だってそうだろ。辛い過去の大きさはわざわざ比較する必要も無いし、出来ることでも無い」
「……でも、今までの私は自分ばかりが辛いと思ってた。……どうしても、私以外のみんなが幸せそうに見えて仕方なかった」
「みんな強い自分をみせたいんだ。弱い部分は素に近い部分でもある」
俺だって雪姫が一緒に来なかったら、話す気なんかなかった。これは信頼関係の厚さとは、また少し違っていると思う。相手から見た自分の印象が『可哀そうな人』なんてもので固められたら、たまったもんじゃない。
「でも、俺にも見せてくれただろ?俺は見せたくないが、他人に弱い部分を見せられるのは悪い気がしない。自分への信頼が少しでもあるように感じるしな」
「……否定はしないけど勘違いはしないでね」
「どっちなんだよ」
思わず笑ってしまいそうになる。もう何年も来ているが、新たに迎えた心強い仲間のおかげで、気持ちは今まで以上に穏やかだ。
こんな暑い中ダラダラ話し込んでもいられないので、さっと水をかけて、お供えをして、手を合わせる。
(今年も俺は元気でやってます。俺のことは軽く見守っていてください。……できれば隣にいるこいつも一緒に)
伝えることを伝えたら、目を開ける。そうしたら、俺よりも長い時間手を合わせる雪姫が映る。その横顔を黙ってみている。
「随分と長い時間何か喋っていたな。俺の先祖の墓で」
「初対面だからね。伝えれることはなるべくたくさん伝えなきゃ」
「何か余計なことは伝えてないよな?」
「逆に大事な事だらけだったわ」
いまいち信用ならないが、とりあえずは見過ごしてやろう。
丁度日が頭上に昇るころ、穏やかな気持ちで俺たちはここを後にした。
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