第12話

 メイドとの同棲生活  

 

 これは、何回でも大声で口に出していきたいが、夏はクーラーをガンガンに効かせた部屋で過ごすことが一番幸せである。

 こんなだるような暑さでは、何をするにしてもやる気も行動力も削がれてしまう。ここは一つ、文明の利器にあやかって行きたいと思う。

 特に学生なら誰しもが頭を抱える、————夏休みの課題を目の前にした時なんかはクーラー様のお力添えなしでは、到底太刀打ちできないだろう。


「あ゛あ゛あ゛!!単語が多すぎる!!」

「黙って解いてろよさっきから!!」


 山盛りの課題との対戦が始まってから一時間弱。流石に集中力が切れてきたのか、ぶつぶつと文句を言いながら問題を解き進めている。

 高校生の課題は多い。中学校だと国数理社英の5教科が基本だ。そこに自由研究や防犯ポスターなどよく分からない課題もあるが、はっきり言ってしまえばそれらは手を抜いても差支えないので、全体で見れば楽なものだろう。


 だが、高校だと少し違う。先ず、国語と数学はそれぞれ、現代文と古典、数学Ⅰと数学Aと分離し、2倍となった課題に襲われる。さらに文系と理系で変わってくるが、社会と理科も中学校のころの面影を残さず分離していく。難易度が上がりながら総量は1.5倍ほどになっている。日本全国の高校生はもっともっと褒められるべきだ。


「多項定理?こんなの全部展開すればいいでしょ……」


 脳みそがあまり回っていないのか、とんでもないことを言い出した。今学生じゃない人も試しにネットで調べてみて欲しい。これを全部展開するなんて人間のすることじゃ無いと誰しもが思うだろう。


「少し休憩しよう。そんなんじゃ効率が悪すぎる。一回脳を休ませろ」


 夏休みが大体半分ぐらい過ぎた。ダラダラしながらも最低限の量の課題を熟しながらダラダラしていた俺は、大して焦らずに今日もプリントに向かっていた。

 問題は俺の向かいに座っている奴だ。見かけではとても優秀そうな彼女だが、その実俺よりも隋ていた。本当に確認するが、俺の専属メイドなんだよな?

 雪姫がどこの高校に通っているかは知らないが、パッと見た感じウチの高校と似たような課題が出されている。量も同じくらいだろうか。


「ご主人様~……。余裕なら私の課題も手伝ってくださいよ~……」

「そんな事態起こり得るか?肩書ばかりのメイドが過ぎるだろ」

「ケチ……。だから友達少ないんでしょ……」

「それとこれとは関係無いだろ!!」


 どこまでやりたくないんだよ……。こうなることが想像出来なかったわけじゃ無いだろうに。


「……英単語の書き写しぐらいならしてやる」

「ホントニ!?アリガトウ!!ジャアコレヤッテ」


 棒読みの感謝の言葉と共に、プリントが渡された。


 妹も最終日まで課題を残しては手伝ってやっていたなと思い出す。


 他人の宿題を手伝うのも何だか夏っぽさを感じてしまう。だが、これを許すのは今回が最後だ。冬休みは相応の対価を払わせなくては……と一人決意した。


 

 

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