第11話

 メイドとの同棲生活  14日目


 突如始まった同棲生活も気づけば二週間が経った。

 互いに適切な距離感を保ちながらも、必要以上に遠慮もしないといった具合で、快適な生活を送っていた。

 バイトもしていない、部活に所属していない高校生の夏休みなど高が知れていて、好きな時間に寝て、好きな時間に起き、特に何かするでもなく過ごすという人が、恐らくだが全体の6割ほど。例に漏れずその6割に分類される様な夏休みを満喫していた。


「私がお風呂掃除してる間に、リビングの掃除しといて」

「洗濯物溜め込み過ぎなのよ!一緒に畳んだら許してあげるわ」


 雪姫からそんな声がかけられ共に家事を熟していく。

 プールでの一件以来、以前より信用された気がしている。

 雇われている以上、『本来メイドがするべきなのでは……?』と思わなくもないが、この共同作業も存外悪くないと思っているので大人しく手を貸している。


 ある程度の家事を片付けると大体正午を少し回ったぐらい。


「そろそろお昼にしましょうか」


 雪姫はキッチンへと移動して、準備に取り掛かろうとしていた。


「あ~……」

「どうかしたか?」

「前回買った食材、ほとんど無くなったわね」

「そうか……。午後に買いに行かないとな」


 食費の方は、祖父から貰った生活費でやりくりしているので、スーパーのチラシを見ながらどんな商品が安いのか、必要かなど話し合った上で買い出しをしている。


「今日のチラシは?」

「まだ玄関においたまま」

「ご飯出来るまでめぼしい物ぐらいは確認しといて」


 さっきから感じてたが、これは主人とメイドのあるべき姿なのか?

 付き合って長いカップルや夫婦だと揶揄されても、否定できないぐらいの空気は流れている気がするが……


 玄関からチラシを持ってくると、今日のお買い得とピックアップされた商品を確認していく。

(卵は一人一パックだから残っていたら買いたいな。旬の野菜ならお手頃だろうが、そもそも今は何の旬なんだ?)

 一人で見ても結局値段を確認する以上の進展がない。最終的に料理をしてくれるのは雪姫なので彼女が必要な材料を買うに越したことはない。

 そうこうしてる内に、料理が完成したらしくテーブルへと運ばれてきた。皿には野菜炒めと思しき料理が盛り付けられているが、何かおかしい。具が多すぎる。


「一体何があったんだ?」

「小分けにしていた野菜がちょっとずつ余ってたの。それをかき集めたら……」

「こんな豪勢な野菜炒めになったと」


 在庫処分をうたっている通り、この一品に入っている野菜の種類は十以上はありそうだ。ただの一人暮らしじゃ間違いなく生まれる事のない代物だが、これもこの生活の面白さの一つかも知れないと思うと、何だか可笑しかった。


 味はもちろん至って普通の、誰もが想像できる味だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る