第10話
時間が経っても、トラウマは簡単には癒えない。
その至極単純な事実を突きつけられた気がした。
自分の力で過去の傷を乗り越えようと試みたは良いものの、アイツと同じように力の差を見せつけられると、体が竦んで動けなかった。喉に何かがつっかえたみたいに息が苦しくなった。挙句の果てには、真に助けてもらい、気を遣わせ、散々な一日だった。
「男に悪い思い出でもあるのか?」
あの場面に少し出くわしただけで、そんな考えに行きついたのだろうか。
それぐらい、私の態度に変化が表れていたのか?それともこいつは意外にも人の感情の機微に触れることが出来るのか?
実際にその読みは的を射ている。
これからもこの傷に私は苦しめられると思う。弱い自分が更に傷つかないように、硬い殻にこもり続けてしまう。真も似たようなものだろう。
だが彼は、功さんの手によって無理やり大海原へと放たれた。その荒波に揉まれながらも、生き抜くために必死でもがいている。
そんな彼を見て私も同じように飛び込みたいと思った。共に変わっていければ、自分ひとりよりも心強いはずだ。これは、私の勝手な目標なのだが。
そんな風に思っていたのだが、何がどうなったら手を繋ぎながら一緒に帰ることになるのか。口車に乗せられているうちに、こんな事になってしまった。
(はぁぁぁ!!どうしよう!!いくら何でも緊張するんだけど?!最後に男の子と手を繋いだのなんて幼稚園のショータ君以来なのよ?!?!)
私よりも大きくて、肉付きが悪くて骨ばった手。でも、ナンパしてきた男たちと違って触れていても嫌な気持ちはしない。少しではあるが気心がしれた相手だからかもしれない。緊張しすぎて手汗が凄まじい事になっていることには、あえて気づかないふりをしてくれているようだ。
「どうだ、トラウマは克服できそうか?」
「ま、まあまあじゃない……?」
「出来るか、出来ないかで聞いたんだが……、緊張でもしているんじゃないのか?」
「アンタこそ、初めて女の子と手を繋げて、興奮しているんじゃないの?その雄弁な口が物語ってるわ」
「なぜ、初めてだと決めつけた。俺だって女子と手を繋いだことくらいあるし……」
「へぇ~、それはいつの話?」
「よ、幼稚園のマキちゃんと……」
「それが最初で最後だと。私と同じじゃない」
「えっ」
「あっ」
わざわざ言う必要のない事まで言ってしまった。
「なんだ、似た者同士だな。二人とも少しでも変われたらいいな」
「随分と前向きになったわね」
「俺の今の生活はじいちゃんを中心に回っているからな。進むか死か選ばなければいけない」
「そんな重い二択だったのね……」
「そうだ。だから一緒に頑張る奴がいると心強いな」
「……それもそうね。少しだけ付き合ってあげる」
いい事ばかりの一日とは言えなかったが、最終的に見れば悪くなかったと思える。真のおかげということだけは癪に障るが、今回は勘弁してやろうと思う。
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