イケないルナアリス先生

玄武堂 孝

【KAC20223】イケないルナアリス先生

 僕こと加原かばら 一はクラス単位で異世界召喚され淫魔王と呼ばれる存在となった。

 チートで無双し、そのたびに嫁が増えていった。

 チーレム大勝利のはずなのだがちっともそんな感じではない。

 僕の異世界チーレム生活はどこかおかしい。


 この世界のエルフはスケベが大好きだ。

 それはエルフの男女構成比に起因すると思われる。

 男女比1:10という極端な女性社会で男性は日々子種を搾取される存在。

 エルフ社会は序列社会であり、男性との子作りもそれに準じている。

 序列を上げるには単純に戦闘で勝てばいいのだが年をとるほど老獪になっていくエルフに若いエルフが勝てるはずもない。

 自然と男性は年長者に独占され若いエルフに回ってきても『しおしお』だ。

 そんなお疲れエルフ男子を元気にするテクニックをエルフは継承している。

 種族を繁栄させるための文化。

 子作りする機会があれば貪欲に子種を搾取するこの世界のエルフは文字通り『エロフ』だ。


 南国エルフは数千年前の魔法王国滅亡期に南方に渡って来た褐色の肌を持つエルフ。

 森の奥でひっそり暮らす少数部族でエルフを見た事のある人間はほぼいない。

 当初僕はダークエルフだと誤解したが実際は単に日焼けしているだけのエルフ。

 だがその厄介さはダークエルフの比ではない。

 どこでもスキンシップを実行、隙あらば僕の子種を搾取しようと行動する。


 南国エルフには大人になるためにダンジョンから何かしらのドロップ品を持ち帰るという儀式がある。

 ドロップ品は何でも構わない。

 ダンジョンに到達するには高レベルの魔物が徘徊する森を通る必要がある。

 つまりそれが試練。

 大人にならないと子作りには参加出来ないので未成年は頑張るのだ。

 そんな未成年(といっても年齢は30歳前後)エルフ12人は『奇跡の世代』と呼ばれていた。

 出産数の少ないエルフ社会で12人も似た年齢がいるのが珍しい事がその名の由来らしい。

 ちなみに『まぼろしのシックスメン』はいない。

 それぞれ『黒い四連生』『暗黒四天王』『黒の四闘士』というPTを組んで僕の領地であるサザンクロスにあるダンジョンに城壁を飛び越え侵入してきた。

 そこで僕と戦闘になる。


 ところでみなさんは『ヤコブソン器官』というものをご存じだろうか。

 人が進化の過程で失ったとされる『第3の目』あるいは『第六感』だという人がいる。

 第六感とは人が感じる事の出来る5つの感覚『視覚』『聴覚』『触覚』『味覚』『臭覚』以外のものを差す。

 一般的には『霊感』などの科学的根拠に起因しない感覚だと思われているがそうではない。

 人類が進化の過程で失ったものには『電気の知覚』や『性フェロモンの臭覚』などが考えられている。

 『ヤコブソン器官』は性フェロモンを嗅ぎ分ける器官、つまり『性フェロモン受容体』だ。

 単純に言えば子供を作るのにふさわしいかどうか嗅ぎ分ける能力。

 この世界の常識としてMP総量の差が大きい男女には子供が生まれにくいという考えがある。

 人間の3倍のMP総量を持つエルフを人間は生殖対象として見る事はない。

 僕のようなヲタクからすればありえない事だがこの世界の人のエルフに対する認識だ。

 エルフも人間を子作りの対象として認識していない。

 ただ不用意にエルフのテリトリーに侵入した狩人を捕まえた際に年若いエルフが子作りの練習として利用する事があるらしい。

 それが間違った形で広まりエルフは『人食いマンイーター』として恐れられている。

 そしてこの世界のエルフは驚くべき事に『ヤコブソン器官』を持っていた。


 淫魔王である僕がエルフを孕ませられる能力を持っていると嗅ぎ分けた南国エルフはリアル戦闘で敗北後に夜戦を挑んできた。

 戦場はベッドの上、1対12という圧倒的な数の劣勢。

 負ければ南国エルフの村で種馬生活というプレッシャー-にも関わらず勝利した。

 …でも種馬生活は変わらない。

 すでに飽和状態だった僕の異世界ハーレムにいきなり12人の愛人エロフが加わった事で破綻状態。

 お嫁さんズから正座で説教される淫魔王の僕だった。



「ニア、今のうちに開けて」


「面倒じゃのー」


 ここは元辺境伯の個人図書館兼工房の2階。

 僕とニアは封印された扉の前にいた。


 南国エルフ12人を受け入れたがカバラ邸本館で受け入れるのは多過ぎなので寝る場所としてここを使用する事となった。

 僕らはかつての辺境伯の屋敷を接収して使用している。

 その離れに辺境伯の蔵書が保管されていた。

 まだ本は全て手書きという貴重な蔵書は近くに開館された『無限図書館セラエノ』へと移動済みだ。

 だがこの扉の奥には封印された禁書が残されている。

 【妖精女王】である妖精猫ニアによって扉は封印されていた。

 だが扉以外の壁などを破壊して内部の禁書をゲットする事は可能。

 この禁書が世の中に出回る事は避けたい。

 それに辺境伯の双子である王国宰相バルドゥイーン・リューガー侯爵と禁書の公開はのちの時代にすると約束している。


「ほれ、開けたぞ。

 早くするのじゃ」


 光の差し込まない室内に入り魔法【ライト】を使い照らす。

 ここは辺境伯の工房だ。

 辺境伯は珍しい【絵師】という天啓職だった。

 禁書は辺境伯が密かに描き続けた絵をつづった同人誌。

 世界に1冊だけの同人誌。

 それが数冊本棚に並んでいる。

 僕はその同人誌を開く。

 そこから作者の迸る情熱が溢れだす。

 愛していた亡くなった奥さんに対する愛情が感じ取れる。

 そう、これは辺境伯が無くなった奥さんとのメモリーを描いた同人誌だ。

 同人誌の中で亡くなった奥さんの喜びの表情が生き生きと描かれている。

 いや、喜びではなく悦びが。

 亡くなった奥さんが縄で縛られハードに責められているエロSM同人誌。

 しかもなぜか昭和の劇画タッチ。

 個人的に好みじゃない画風と理解出来ない内容だがその情熱はひしひしと伝わってくる。

 そう、これは禁書といっても発売禁止書籍だ。

 これを世の中に出すのはまずい。

 少なくとも双子であるリューガー侯爵が亡くなるまでは世の中に出すわけにはいかない。


「なんですか、これ?」


 僕の後ろからルナアリスがエルフ耳をピコピコさせながら本を覗き込んでいた。

 まずい!

 禁書が見られた!?

 流れるような動作で本が取り上げられる。

 笑顔だったルナアリスが真顔になる。

 こんな表情はリアル戦闘中だって見た事がなかった。

 無言で本のページをめくる。

 そして読み終わると本を僕に返し背を向けた。


「ルナアリス!これは…その!」


 背中が小さく揺れていた。

 これは僕の趣味じゃないから!

 どう説明しようか悩む。

 横でニアが黒い笑顔で傍観している。

 だがルナアリスはすぐに振り返った…笑顔。


「人間さん!今晩はこれでお願いします!!」


 その手には1枚の髪に絵が描かれていた。

 縄で拘束された女性が後ろから男性に責められる絵。

 画風は辺境伯同様の昭和劇画タッチ。

 よく見ると女性の耳は長く、男性の顔は…劇画タッチの僕!?

 淫魔王という名にふさわしい邪悪な表情を浮かべている。


「これでイキたいです!イカせてください!!」


 だから南国エルフ、特にルナアリスには見つかりたくなかったんだ。

 こんなハードSM同人誌を見つければドMエロフのルナアリスはプレイをせがんでくるだろう。

 ヘタレの僕にこんな縄を使ったプレイはハードルが高すぎる。

 しっかり誰もいないのを確認していたはずなのに見つかるとはニアがリークしたのか?


「ルナアリス、台所でおやつ食べてたよね?」


「ですです!

 でもなんか人間さんがエッチな事をするような気がして急いで追いかけてきました!!」


 エロフの第六感?

 いや、エロセンサー半端ない。

 もうセブンセンシズを開眼したエロセイントだ。

 まあ、そのおかげでルナアリスの『絵師』としての才能がわかったのは収穫だったけどね。


 こうして異世界に劇画エロ漫画家ルナアリス先生が爆誕した。

 PTAのないこの世界でルナアリス先生の漫画は広まっていく。

 それと同時に僕に対するルナアリスのハードなプレイ要求が度を越えていくのだった…。



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