サメが出てくる気がする

武州人也

サメに殺される

 不思議な話が聞きたい? そうだなぁ……俺が話せるのは一つぐらいだが……こういうの、何ていえばいいんだろうな。第六感? ってやつでいいのか?

 

 俺の友達の相楽さがらってやつの話だ。あいつは不思議な男だった。「サメに殺される」のを予知できる、妙な能力をもってたんだ。


 俺が相楽の予知能力を知ったのは六年前、俺と相楽が大学に入学した年のことだ。

 俺たちはサークルの合宿で海に行くことになった。そのときあいつは俺に「あそこサメが出るんだ。俺は行かないよ」って言ったんだ。

 気になってネットで調べてみたら、そこの海はサメ騒ぎなんて無縁なところだった。だけどあいつは当日に風邪をひいたといって、合宿を休んだんだ。

 ……合宿に行った後、俺はあいつの言葉が正しかったことを知った。その海水浴場に三メートルのクロヘリメジロザメが現れて、一人の死者を出したんだ。

 大きなサメなんてここ数十年現れてなかったらしいし、死人が出たもんだから、海水浴場は大騒ぎだ。結局海水浴場は閉鎖されて、俺たちは海水に足を浸すことなく帰るはめになった。


 二度目はそれから一年後、俺の家で宅飲みしたときの話だ。俺は相楽を連れて近所のスーパーに酒を買いに行ったんだが、その帰り……あいつが俺の袖を引っ張りながら言ったんだよ。


「道を変えよう。サメに殺される」


 俺は吹き出しそうになった。でも相楽の目は真剣そのものだったから、逆らい難いものを感じた俺は素直に言うことを聞いた。

 道を迂回してアパートに帰った俺は、相楽を問い詰めた。


「あんな普通の道にサメが出るわけないだろ。陸にサメを出すサメ映画じゃないんだから」

「何て言ったらいいのかな……何かこう……頭の中で男の低い声がするんだ。“サメが出るぞ ”って」

「何だそれ」

「子どもの頃、親父の仕事の都合で沖縄に六年ぐらいいたんだけどさ……この声に三回も助けられてるんだ。だからこの声には逆らえないんだよ」

「へぇ~」


 俺はこんな話を本気にしちゃあいなかった。けれども俺は後日、思いがけない形であいつの予知が正しかったことを知る。

 その後、一人の殺人犯が逮捕された。俺のアパートのすぐ近くで、塾帰りの男子中学生が刺殺されんだと。いわゆる通り魔ってやつらしかった。

 

 ……その通り魔、島って名前だったんだよ。


 次はそれから半年後、俺と相楽と、あともう一人友人を連れて三人で神戸に行ったときのことだ。

 俺たちは相楽の運転する車に乗ってたんだ。車は高速道路沿いの道を走ってたんだが、あいつは急に交差点を曲がって、高速道路から遠ざかったんだ。


「もしかして、またサメか?」


 何となくそんな気がしたんで、俺はつい口走った。


「その通り。あのまま進んでたらサメに殺されるところだった」


 相楽の予知は、またしても的中した。ホテルに到着した後に知ったことだが、神戸市内で高速道路からトラックの積み荷が転げ落ちたのだ。さいわい人身事故にはならなかったが、あのとき相楽が車の進路を変えていなかったら、俺たち三人はそれに潰されていた。


 ……トラックの積み荷には、チョウザメがたくさん詰まっていたんだとよ。


 え、チョウザメはサメじゃないって? まぁそれを言ったら通り魔の鮫島だってサメじゃないし……多分、あいつの能力は「サメ」って名前のつくものに反応するんだろう。


 今、相楽がどうしてるかって? そりゃそうだよな。俺の話聞くより、本人と会った方がいいもんな。


 ……相楽は……あいつは死んだよ。

 

 ついこの間のことだ。あいつは沖縄旅行に行ったまま、行方不明になっちまった。その後、沖縄でイタチザメの胃袋から人骨が発見されたんだが……その人骨があいつのものだって分かったんだ。骨は右脚の分しかなかったから、あいつ自身は溺死か失血死してそのまま海に流されちまったんだろう。まだ右脚以外は見つかってないんだ。

 食われちまったんだよ。でもあいつがサメに食われるはずないだろ? そう思ったんだけどよ、確かにあいつを食ったのはサメじゃなかった。















 イタチザメの腹から、巨大なオニカマスが出てきたんだ。あいつの骨は、そいつの胃袋の中にあったんだ。あいつはオニカマスに食われたんだよ。

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サメが出てくる気がする 武州人也 @hagachi-hm

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