天使の頼み事。「第六感を磨いてくれ」(世界平和に向けて、その③)

月猫

閉じられた第六感

「あぁー、ったく。」


 巻き毛の黒髪をくしゃくしゃにして、瑠使ルシが苛立っている。

 腰かけている大きな岩は、沈む太陽の光を浴びていた。

 

 バサリ、バサリ。

 瑠使ルシに近づく大きな羽音。


「どっこいしょ」

 そう言って大きな羽をたたみ、隣に腰かけたのはガブリエルだった。

 


瑠使ルシちゃん、大丈夫? 不知プチさんのことで困ってる?」

「あぁ。悪魔たちの推し活が凄すぎて、俺の言葉が全く届かない。参ったよ。お前は推しを見つけたのか?」


 右手に持った白い百合の花を口元に近づけて、ニヤリと微笑む。

「うん、『カクヨム』で数名。それから、怖いもの知らずのジャーナリストも見つけたよ。今、推し活してる。特にジャーナリストたちは、命を懸けているから、頻繁にメッセージを送っているよ」


「メッセージ、受け取ってくれているか?」

「半々だね。 第六感・ひらめき・シンクロ。そういったものを信じてくれるタイプの人には通じるけれど、思考型の人にはなかなか……。 ミサイルや銃撃戦に巻き込まれないように『そっちに行くな!』ってメッセージを送ってはいるんだけど」

「だろうな」


 二人は、太陽を見つめた。

 太陽は、空一面を覆う雲を真っ赤に染めている。

 それは、胸騒ぎを呼ぶ不気味な色だった。


 瑠使ルシが太陽を指さす。

「見ろ! この不気味な空を!! 不知プチが仕掛けた戦争で、太陽怒っている。太陽が怒りで暴走を始めたら、この地球は終わりだ。不知プチは、自分の行為が太陽を怒らせていることなど思いもしないだろう。自分のことしか考えていないからな」

 いつも冷静な瑠使ルシが、声を荒げて言った。


「文明が進んで人間の第六感は、閉じてきちゃったからなぁ。嗅覚・視覚・聴覚・味覚・触覚の五感を超える直感。その第六感が、現代人に足りない……。精霊や天使や神との繋がりを忘れて、快楽や物欲の世界へ真っ逆さま。そのなれの果てが、これか……」


 二人は、ぼぉっと太陽が沈むのを見ていた。

 

 バサリ、バサリ。

 また大きな羽の音が近づいてきた。

 ふんわりとウェーブのかかった金髪天使、ミカエルだ。


「あっ、実嘉ミカちゃん! こんばんは!!」

実嘉ミカちゃん、こんばんはじゃねぇ! こんな所でサボってたのか。羅芙ラフが、怪我をした人間にヒーリングを送るのに、使天使が足りないって困っていたぞ。我部ガブの使天使を貸してやってくれないか?」


「あぁ、わかった。宇梨ウリちゃんの方は、どうなってるの?」

「戦場で張り詰めた空気を和ませようと、音楽を送っている。音楽家は、第六感が強いから、宇梨ウリのメッセージを受け止めて、楽器を手に取り演奏してる。少しだけ、気が紛れているようだ」


「そっか。ねぇ、実嘉ミカちゃん。どうやったら、第六感って磨かれるのかな?」

「簡単なことだ。神や天使や精霊の存在を信じること。自分に嘘をついて生きないこと。ふっと閃いたことを大切にすること。全てを愛すること。それだけだ」


「うわぁ、今の人間が最も苦手としている生き方じゃん。ここで、愚痴をこぼしていてもしょうがない。僕も仕事に取り掛かるよ。お先!」


 我部ガブは、羽を広げ飛び立った。


瑠使ルシ不知プチの様子はどうなってる?」

「悪魔の推し活にガードされて、なす術がない。だから、不知プチの奥さんと子どもにメッセージを送っている。第六感は強くはなさそうだが、不知プチよりメッセージが届くだろう」


「そうか、お前がいてくれて良かったよ。不知プチのように、魔界に魅入られた人間には、俺たちは近づくこともできないからなぁ。何か、困ったことがあったら言ってくれ」

「あぁ、わかった」


 二人は笑みを交わすと、羽を広げ飛び立った。

 平和を取り戻すために……

 傷ついている人間を癒すために……




  





 


 

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天使の頼み事。「第六感を磨いてくれ」(世界平和に向けて、その③) 月猫 @tukitohositoneko

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