これが私のセックスセンス‼︎
杜侍音
訂正:シックスセンス
街に銀行強盗が現れた!
犯人は男三人組。いずれも銃を装備し、従業員や偶然居合わせた客を人質に取っている。
『無駄な抵抗はやめなさーい』
「うるせぇ! 逃走用の車を用意しろぉ! さもなくば撃つぞぉ!」
『やめなさーい。地元でお袋さんが泣いているぞー』
この問答の繰り返し。
打開策が見つからず、時間だけが過ぎていく中、一人の女子高生が走り出した!
『こら! きみ!』
「んだ、おめぇ? 邪魔するんだったら誰だろうとぶち殺してやる‼︎」
女性従業員を盾に入口に立っている男は、女子高生に向けて何度も発砲した。
しかし、どの銃弾も外れ。プロではない狙撃だとはいえ、女子高生はおろか地面や警備隊にも当たっていない。
「──無駄です! 私に銃は効きません‼︎」
女子高生が手を振り上げるのを合図に、男たちは銃を上に放り投げてしまう。
その自身の行動が予想外だったようで慌てて拾おうとするが、体が動かない。
「がはっ……! う、動けねぇ……! 何しやがった!」
「今です! 警察の皆さん!」
謎の力で拘束された犯人グループは突撃してきた警察に簡単に捕まってしまった。
突然現れた不思議な力を操る女子高生。
人質となっていた人たちからは感謝され、警察からも謝意を述べられた。街の人たちは拍手で彼女を称え、事件の様子を生放送でお茶の間に伝えていたメディアが女子高生に突撃取材をする。
「あなたは一体何者ですか⁉︎ そして、その力は何なんですか⁉︎」
「私はただの女子高生です。そしてこれは、私の〝セックスセンス〟です‼︎」
……歓声が閑静なものとなった。
◇ ◇ ◇
「つまり、物を自由自在に動かせるサイコキネシスだけでなく、先程お見せしていただいたテレポートも使える、ということですか?」
「はい、そうです! 私のセックスセンスには六つの能力があります。他にも簡単な傷なら癒せるヒーリング。あと、パイロキネシスなんかがあります」
(パイオッキインデス? 貧乳の私へと当てつけか?)
「こんな感じで、火を生み出して操れるんです」
ふふん、と誇らしげに胸を張り取材に答える女子高生は右手から小さな火柱を出した。
本人曰く、制服が燃えてしまうからあまり使いたくないというが、今にもカッターシャツがはち切れてしまいそうだ。
「それと、心が読めるテレパスもあるんですけど、疲れちゃうのであまり使いたくはないですね──はっ‼︎」
女子高生の脳内によぎる嫌な予感。
「どうされました?」
「……私の六つ目の能力、事件を素早く察知するディテクションが発動しました。すぐそこでひったくりが起きたみたいです」
「行かれるのですか?」
「もちろん! 私はこの力で街の平和を守りたい──これが私のセックスセンスですから!」
「あ、はい……」
彼女は願いを成し遂げるため、次々と巻き起こる問題に立ち向かっていく。
どんな凶悪犯罪も素早く解決、事故も起きる前に未然に防ぐ。おばあちゃんが階段下で立ち往生していたら手を差し伸べ、子供たちのドッジボールが奇数であったら自分も混じって一緒に遊んであげる。
小さなことから大きなことまで、よりよい街づくりのために彼女は動いた。
そんな彼女の功績に街の人々から支持されてはいくが……
「セックスセンスじゃなくて、シックスセンスよね?」
と、耳打ちされるようにもなっていた。
ただ、その類稀な美貌と嫉妬されるようなスタイル、そして〝セックス〟という単語を意味も知らずに言い間違えてしまっている純朴さから男性ファンを増やしていた。
「ヒーロースーツですか! 制服だと汚れちゃうなと思っていたので嬉しいです!」
活躍の場を増やす彼女の元に、地元の繊維企業からヒーロースーツがプレゼントされることとなった。
「わぁ……! あれ? えっと、あの、少し……布面積が……」
「いえ、これは布面積を減らすことで敏捷性が失われることを防ぐだけではなく、肌に密着する素材の使用によって布の伸縮性を存分に発揮し、あなたの柔軟性が活かされるようになるためであって、デザインを優先して作ったのではありません、こうならざるを得なかったのです」
えらく早口で捲し立てる開発者代表。
青色をベースとしたヒーロースーツはハイレグでお尻が少し溢れてしまいそう。胸の中央部には穴が空いており谷間も覗ける仕様になっている。
彼女の豊満なボディがかなり強調された代物となっている。
最初は少し照れながら着替えて活動していたものの──これが意外にもかなりよくできたもので、開発者の言葉通り動きやすい上に、スーツは汚れにくく、パイロキネシスで炎を纏っても燃えず、破れにくいということで今後も使用する方針となった。
ちなみに、頑丈さまでは付け加えるなよとネットでボヤ程度に炎上した。
ヒーロー活動を公に始めて三ヶ月。
世界中から注目されるようになり、ますます人気と知名度が上がった最中、愛する地元の街でマンション火災が発生する。
「娘が! まだ中に‼︎」
多くの人を救出していく女子高生ヒーローに届く、一人の母親の嘆き。それに応えようと、大きく燃え上がる部屋へとテレポートした。
瞬間、大きな爆発が起きた。
誰もが息を呑んで見守る中、突然上空に現れる二つの影。
正体は女子高生ヒーローと、彼女に抱えられた女の子。無事に救出することに成功したのだ。
「あぁ、よかった! 本当に無事でよかった‼︎ 娘を助けていただきありがとうございます……‼︎」
ヒーリングで女の子を回復させていると、母親が駆け寄ってきてお礼を述べた。
「いえいえ、私のセックスセンスは誰かを助けるものですから!」
「あ、はい……」
「──あーお姉ちゃん、またえっちな言葉使ってるー」
「……え?」
喋れるくらいには回復した女の子にそう言われて、女子高生ヒーローはどういうことか分からず戸惑ってしまう。
母親が止めようとするも、女の子は続けて話す。
「だって、お母さんが前テレビに向かって言ってたもん。せっくす、ってえっちな言葉だって。本当はしっくすせんす? って言うんだってー」
「し、しっくすせんす……?」
ネットでの評価を気にすることなく慈善活動に勤しんでいた女子高生ヒーロー。自身が言い間違えしているというコメントの指摘も見ず、またみんな気まずくて言いづらかったのもあり、ここまで知らずに生きてきた。
ふと、周りの目が怖くなった。嫉妬、好奇、怪訝、人によって見方は違うが、自分が思っていることとみんなと間には、大きな勘違いが何かあるのではと疑いだした。
今までほとんど使用したことがなかったテレパスで、周囲の人の心を矢継ぎ早に流し読みしていく。
(セックスセンスってとんだ言い間違いだよね)(わざとじゃなくてガチで言ってるのが草生える)(子供に悪影響だわ、ちゃんと確認してから名乗って欲しい)(おっぱいでけー)(人助けするたびにセックス言ってるもんな)(セックスがエッチする意味って知らないのかな)(ほんと、はしたない子ねぇ)(服エロ)(本当はそういうの好きなんじゃないの?)(変態じゃん!)(いつもいいもん見させてもらってます)(男に媚びてる感じがムカつくんですけどー)
「ふぇ……へぇぇぇえ⁉︎」
自身がずっとエロい言葉をメディアを通して世界中に宣言していたこと。誰かを助けても常にセックスという言葉がついて回っていたこと。
急いでバッグの中に入れていたスマホで〝セックスセンス〟と検索すると、エロ画像ばかり出てきてしまった。
急に恥ずかしくなった女子高生ヒーローはその場から瞬間移動で逃げてしまった。
人はそれを見て、〝照れポート〟と呼んだという。
◇ ◇ ◇
街に銀行強盗が現れた。
犯人は男三人組。いずれも銃を装備し、従業員や偶然居合わせた客を人質に取っている。
しかし、もう大丈夫。
この街にはヒーローがいる。
「ちょ、ちょっとそこの犯人……! わ、私のシックスセンスで、あなたたちを成敗します、から、その、かかかか覚悟してください……!」
以前の堂々とした態度と違って、今では背中が丸くなっちゃうほど弱気に恥ずかしそうに名乗っている女子高生ヒーロー。
けれども、それはそれで良い、と男性のみならず女性ファンも増やしていったらしい。
「さ、サイ、コキ、ネシス……‼︎」
これからも街の平和は彼女が守る……!
がんばれ! 女子高生ヒーロー!
これが彼女の〝シックスセンス〟である‼︎
これが私のセックスセンス‼︎ 杜侍音 @nekousagi
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