笑う月の夜に

赤城ハル

第1話

 夜空を穿うがつ大きい白い穴からの月光が、廃倉庫の大きい穴のいた天井を通り、私のいる廃倉庫内をうっすらと、不気味に照らす。

 たゆたう雲が悪霊の塊のように見えるから不思議だ。

 私の周りには赤い血と肉片、そして内臓。元の廃倉庫が持つ錆びた鉄とは違う、人の血の匂いが大気に乗って漂っている。

 そこへ二人の女が訪れた。

 一人は長髪長身の女。黒い髪が絹のように艶やかで情欲を掻き立てる。

 もう一人は短身で、色素の薄いショートヘアーの女。というか子供。小学生高学年か中一くらいの。まだ初潮を迎えていないような初心うぶな子。

 二人の足音は大きくもなく、小さくもない。意志が強いようで、でもどこかこの世とは隔離するような薄いものを感じる。

 言葉にしなくても同業者だとわかった。

 私は二人に向き直り、言葉を投げる。

「誰か目当てな子はいて?」

 殺した彼らのうちに彼女達の狙いの子がいたのだろう。さもなければこんな所へはこない。もし違うのであれば私という可能性もあるが、私には判る。私ではないと。

 殺人鬼がぶつかるとどうなるのか?

 私にとって彼女達は初めて会う殺人鬼。

 私は血の池を進む。パンプスが濡れ、血の池を出るとパンプスの跡が残る。私は気にせずに彼女達に歩み寄る。

 よく見ると二人も端正な顔立ちであった。美少女と美女。

「そいつ」

 ショートヘアーの女の子が人差し指をさす。

 指の向こうには肉塊がゴロゴロしていて原型が分からない。

「そう。ごめんなさいね。お詫びに他の子を教えようか?」

 この世にはゴミは多い。

 それにきっと今日、集まらなかった子が何人かいるだろう。

「いい。だけどお腹空いた。何か奢って」

 私は天井の穴を見上げる。

「ううん。この時間は……ファミレス開いていたかしら?」

 さすがに深夜は開いていないよね。

「スーパーの惣菜で構わない」

「いやいや、スーパーは開いてないよ。せいぜいコンビニ」

 少女は首を振る。

「24時間営業のスーパーがある」

「へえ。……いいわ。惣菜でもお菓子でも買ってあげるわ」

 私達は外に出る。冷たい夜風が私の火照った体を冷やす。

「私達の目的はあいつだけではないの」

 少女が歩きながら言う。

「他にもいたの?」

「貴女」

「私? 私を殺すの?」

「違う。同業者を見つけるの。そして話を聞く」

「話を?」

「そうよ。ねえ? 美春?」

「はい」

 ずっと黙ってた長身の女が口を開く。

「面白い話はできないわよ?」

 殺しの美学なんてものはない。

 ただ殺すだけ。

 ただほふるだけ。

 ただ壊したいだけ。

 絶叫、命乞い、死に際の呪詛を聞きたいだけ。

「いいの。同業者に出会えて、話が聞ければ」

 少女はどこか嬉しそうに言う。

「良かったですね。お嬢」

 長身の女が言う。

 お嬢ということは主従関係だろうか。なんとなくだが、初めて会った時からそのような雰囲気はあった。

「こういう月が笑ってる夜は出会えるのよ。そうでしょ?」

 少女が私を見て聞く。

「……そうね」

 まさか同業者に出会えとは思わなかったけど。

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笑う月の夜に 赤城ハル @akagi-haru

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