第一感から第五感、併せて第六感
鯨ヶ岬勇士
第一感から第五感、併せて第六感
第六感——それは視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感のどれにも当てはまらない感覚のことである。しかし、私は考える。第六感とは言語化できない五感が感じた違和感の集合体なのではないかと。ある意味では第六感とは推理力なのだ。
例えば食事でもそれは発揮される。見たこともない異国のサラダを口元に運んだ瞬間、第六感によってそれを拒絶した。
それを細かく分解していけば、一瞬感じた香り、フォークから伝わる水っぽい重たさ、持ってきた主人の顔つき——その様々な組み合わせが第六感を生み出している。
「これ、トマト入ってます?」
「はい」
第六感が当たった。私は生のトマトやリンゴ、桃といったバラ科の食べ物にアレルギーがあり、口にすると唇から食道にいたるまで痒くて大変になる。
その経験の積み重ねによって生み出された第六感が、私にサラダの中に隠されたトマトの存在を突き止めさせたのだ。それは言葉では言い表わすことの難しい鼻をくすぐる僅かな香り、トマト特有の水っぽい重量感、そして店の主人の「トマトが入っていますよ」という雰囲気——それらの違和感がトマトへの第六感を生み出したのだった。
「危なかった」
「何か言いました?」
「いえ、何も」
店主には悪いが、そのサラダを残して店を出る。そのときの顔には自然に笑みが浮かんでいた。
だが、第六感がいつも当たるわけではない。違和感は違和感であり、それは確信にならないことも多い。そしてそれは、最悪のときに限って外れてしまう。
知人と一瞬連絡が途絶えたとき、長い付き合いによる会話の変化、近隣の病院の開院時間、さらには語っていた前日の予定——もしかしたら、入院かという第六感が反応した。私は心配し、方々に連絡した。
しかし、すべては結局、的外れなものに終わった。それでも大病じゃなくて良かったと胸を撫で下ろしたが、それもまた的外れだった。
知人は自身の健康へ絶対的な信頼を持ち始め、頑なに病院に行かない性格が形成されていることを知ったのだ。
私の第六感は最悪のときに外れる。それを知ったのは、知人が交通事故で——それも後遺症によるもので——亡くなったときだった。知人は事故を起こしても、絶対的な健康への自信により、警察への連絡はおろか病院にすら行かなかったのだ。
その絶対的な自信から相手とも示談で済ませ、他に被害者がいなかったことから誰もそれを知ることはなかった。それが彼の脳を蝕んでいるとも知らず。
私は知人の健康への違和感に気がつくことができなかった。第六感などない、あるのは自分の持つ弱い推理力だけ。そう知人の墓の前で悟った。
第一感から第五感、併せて第六感 鯨ヶ岬勇士 @Beowulf_Gotaland
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