娘は私の最推しです!
宵埜白猫
娘が可愛すぎて辛い……
私の娘は可愛い。
「……ママおはよぉ」
こんな寝起きの声が、たまらなく愛おしくて、平日の連勤の疲れなど吹き飛んでしまいそうだ。
「おはよう花、朝ごはんもうすぐ出来るから座って待ってて」
「はーい」
まだ眠そうな目を擦りながら、花がリビングへ向かう。
休日の穏やかな日差しと、普段よりまったりしているようなニュースの音を聞きながら、私はちょうど甘い匂いがしてきたパンケーキをひっくり返した。
数枚焼いてお皿に乗せ、いくつかのフルーツジャムとチョコレート、そしてメープルシロップと共に花の待つテーブルへ運ぶ。
そう、ウチの休日は決まって花の好物パンケーキから始まるのだ。
「お待たせー」
私がパンケーキをテーブルに置くと、花はすぐに目を輝かせる。
「パンケーキ! ママありがとう!」
純粋無垢な笑顔を私に向けて、花は「いただきます」と言いながらオレンジママレードの瓶を手に取った。
そう、この笑顔。この笑顔のために私は毎週頑張って仕事をして、休日にはパンケーキを焼いているのだ。
そりゃ理不尽な上司やら訳の分からないクレームに腹が立つこともあるが、そんなものに一々囚われているのはバカバカしい。
どうせそいつらだって今頃私の気も知らずに優雅な休日の眠りを堪能しているに違いない。
だから花。願わくばこのまま、その純粋無垢な笑顔を失わないでおくれ!
「ママは食べないの?」
口の端にジャムを付けて、こてんと可愛らくし首を傾げる花に内心で悶えながら、私は「今から食べるよー」と返してブルーベリージャムを手に取った。
その様子を、花がじっと見つめている。
「ママはブルーベリーの方が好き?」
「んー、……メープルシロップやチョコよりは食べやすくて好きかな」
私は少し迷って答える。
昔はもちろんメープルシロップやチョコも大好きで、今も嫌いという訳では無いのだが、最近はあの甘さが少しきつくなって来ているのだ。
「じゃあ、わたしも食べてみようかな」
「ふふ、ブルーベリーは目に良いっていうし美味しいから、花もきっと気に入るよ」
私が言うと、花は意を決したように二枚目のパンケーキにブルーベリージャムを塗った。
これが花の人生初ブルーベリーだ。
こういう小さな記念日に立ち会えるのが、なんだか嬉しい。
小さな口を恐る恐る開けて、花がパンケーキにかじりつく。
ゆっくり咀嚼し、それを飲み込んで……
「美味しい!」
またキラキラと目を輝かせたのだ。
子育てをしていると、まだまだ分からないことも戸惑うことも多いけど、彼女がこうやって新しい世界を知る瞬間はいつだって胸が躍る。
きっと私の見ていない所でだって、花は日々新しい世界に出会って、成長しているのだ。
「ママ!」
「ん? なあに?」
「いつも美味しいパンケーキ作ってくれてありがとう!」
とくん、と胸が跳ねる。
まるで彼女のパパと出会ったときのように。
けれどこれは恋ではない。
恋愛感情ではなくて、ただただ好きで愛しくて、ずっと幸せでいて欲しいと思うような。
人はこれを家族愛だとか、あるいは親バカだとか言うのかもしれない。
けれど私は、あえて別の言葉で表現しよう。
「どういたしまして」
娘は私の最推しです!
娘は私の最推しです! 宵埜白猫 @shironeko98
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