好きな子に推されています

好きな子に推されています

みのり、宿題見せて」

「自分でやりなよ」

「今日だけ、お願い!」

「はぁ……まぁいいけどさ」


 親友の桜井 春奈に強請られて、ノートを差し出した。


「あぁ、今日も推しカプが尊い……!」

「……悠香、落ち着こ? どこがそんなに良かった?」


 キラキラした目で私と春奈を眺めて、1人盛りあがっているのが坂下 悠香。私の想い人。


「大丈夫! 私には分かってるから! ノートに愛の言葉が書いてあるんでしょ? 好き! とか」

「書いてません。そんなにくっつけたいの?」

「それはもう!! 美女同士なんて、目の保養!!」 

「何度も言ってるけど、私が好きなのは悠香なんだけど?」

「私の方が好き、なんてカモフラージュいらないって! 大丈夫! みんな応援してくれるから」

「はぁぁ……」


 私の気持ちは、1ミリも伝わっていない。むしろ、春奈とくっつけばいいとさえ思われている。悲しい。

 春奈が可哀想な子を見るような目で見てくるけど、そもそもの原因はアンタよ?

 睨みつければ、何故か悠香が顔を手で覆った。今度はなんの誤解?


「アイコンタクト尊い……」

「違います」


 私の気持ちが伝わる日は来るのだろうか?

 気づいてないのって悠香だけだよ? きっとクラスのみんな知ってるよ? 私に向けられる、この可哀想な子を見る目になんで気づかないのか……

 そんな思い込みの激しいところも好きだけど。



 この変な誤解が始まったのは、今月頭の出来事から。

 元々、私と春奈は同じ中学で、高校でもクラスが一緒だったから2人でいて、そんな私たちをキラキラした目で見つめていたのが悠香だった。


 人見知りな私が話しかけられないでいたら、見かねた春奈がお昼を一緒に食べよう、と誘ってくれた。

 小さくて柔らかそうで、仕草の一つ一つが可愛かった。



 3人でいることが増えて、悠香が先生の手伝いで居ない間に、春奈と2人で話をしていた。


「悠香の事、好きなんでしょ?」

「……分かる?」

「分かりやすすぎ」

「やっぱりかぁ……引かれないかな」

「そんな子じゃないと思うけど」

「そう思いたいけどね……」

「ああいうタイプははっきり言わないと伝わらないよ」


 ハッキリ、ねぇ……ニヤリ、と笑った春奈は絶対悪ノリするやつだ。キメ顔してるし、告白の真似事辺りかな?


「実……好きだよ。幸せにする」

「「…………っぷ、あははは」」

「なんなのその無駄なイケボ」

「ちょっとくらいドキッとしたでしょ?」

「キメ顔に笑わないよう必死だったわ!」


 何事かと見守っていたクラスメイトも、びっくりしたー! と盛り上がってくれた。春奈がふざけ倒してて申し訳ない。内緒だけど、この人、幼なじみで親公認の社会人の彼氏がいるからね。


「悠香遅いね」

「本当。そろそろ来てもいいと思うんだけど」

「あ、来た来た……悠香?」

「私、応援してるから!!」

「……はい?」

「前からお似合いだなって見てたの!」

「何の話?」

「さっき、告白聞いちゃって」

「……え?」


 告白、ってさっきの?


「悠香、どこまで聞いた?」

「盗み聞きなんて、ごめんね! 春奈ちゃんが、好きだよ、幸せにする、って……きゃー!」

「……うん。その後は?」

「もう、興奮しすぎて返事聞き漏らしちゃって……OKしたんだよね?」

「してません」

「そんなに照れなくてもいいのに」


 その後を聞いてなかったの? 春奈、どうしてくれるの……


「ぷっ、悠香、あれは冗談だから」

「分かった。そういう事にしておくね! 大丈夫! 秘密にするから!」


 あのね、教室にまだ沢山残ってるでしょ? そんなところで告白しないって。気づいて?

 悠香はどうやら、百合好き女子だったらしい。引かれることはないって分かったけど、この日、別の問題が浮上した。



「あれ、今日は春奈ちゃん待たないの?」

「うん。今日は1本早い電車で行くって」

「そうなんだ。私たち2人なんて、珍しいね。私でごめんね」

「ううん。私は悠香と2人で嬉しいよ」

「優しいね!」

「悠香、こっちおいで。潰されちゃう」

「あ、うん。ありがとう」


 悠香は小さいから、私が守ってあげないと。少しくらい、意識してくれたらいいのにな。


「きゃっ」

「大丈夫?」

「うん。大丈夫! ……え?」

「危ないから、手繋ご」

「いやいや、大丈夫! 春奈ちゃんに悪いよ!」

「……あのね、本当に春奈とはなんでもないから。春奈に彼氏いるって知ってるじゃん」

「……偽装でしょ?」

「違います」


 ダメだ。この子の頭の中では私と春奈は内緒で付き合ってる、って事から変わらない。何をしても裏目に出る気がする。いっそキスでもするか、なんて物騒な考えに支配された時、駅に到着した。


「悠香はさ、どうしたら信じてくれる?」

「……本当に付き合ってないの?」


 めちゃくちゃ悲しげな顔で見上げられて、即答できなかった。好きな子を悲しませたくないじゃん?


「……うん。期待に添えなくて申し訳ないけど、ないよ」

「そっかぁ……そうなのかぁ……でも、妄想は自由だもんね?」

「……そうだね」


 そうだね、じゃないだろ私……でも、こんなに可愛く上目遣いで言われたら、肯定する以外ないよね?


「あのね、今度モデルやって欲しいんだけど、いい?」

「モデル? 写真部の? 別にいいけど」

「本当!? 嬉しい! 出来れば、春奈ちゃんに実ちゃんを押し倒して欲しくて」

「……はい?」


 聞き間違いかな? まさかの、好きな子から過激な要求。内容を確認してからOKすべきだった……

 しかも、私が押し倒される側らしい。色々納得いかない。


「他にもいろいろあるから、時間のある時に2人で写真部来て? 楽しみだなぁー!」


 春奈ちゃんにもお願いしなきゃ、とルンルンで学校へ向かう悠香を止めることなんて、私には出来なかった。


 私はこれからどうしたら良いのでしょうか? 誰か教えてください……

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好きな子に推されています @kanade1

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