わたしのおすすめ

日乃本 出(ひのもと いずる)

わたしのおすすめ


 わたし、ミカ。ぴちぴちの十一歳。

 今日は、わたしの好きなものをみんなにおすすめしたいと思うの。

 でも、普通におすすめするだけじゃあ、面白くないから、クイズにしよっかな。わたしのおすすめしたいものがどんなものか、少しずつ言っていくから、当ててみて。


 じゃあ、最初のヒント。

 わたしの好きなものって、わたしと同じくらいの女の子からすれば、とっても変みたい。失礼しちゃうわよね。

 あんな可愛いものに、興味がないほうが変なんだ。わたしは変じゃないもん。


 それじゃあ、次のヒント。

 わたしの好きなものって、とってもデリケートなの。まるで、わたしみたい。わたしって、すごくデリケートなのよ。だから、丁寧に扱ってくれないと、わたしも、わたしの好きなものも、すぐにダメになっちゃう。


 次のヒント。

 わたしの好きなものって、すごく長生きなのよ。どれくらい長生きかっていうと、わたしと同じ日に生まれたとしても、わたしなんかよりもずっと長く生きることができるの。すごいでしょう?


 さあ、わたしの好きなものが何か、わかったかしら?

 亀さん? ううん、違うわ。全然違う。亀さんなんか、臭いがきついし可愛くなんかないじゃない。わたしの好きなものと一緒にしないでほしいわ。


 わからないみたいだから、次のヒントをあげるね。

 わたしの好きなものって、水がないと死んじゃうの。だからといって、おさかなさんじゃないわよ。おさかなさんは、食べるのは好きだけど、飼うのなんて考えたことないもの。


 どうかしら、まだわからない? じゃあ、ヒント。

 わたしの好きなものって、場合によっては、すごくお値段が高いの。この前、近所のおじいちゃんのものが、わたしのおこづかいの二十五年分くらいだって言ってて、とってもびっくりしたわ。


 どう、わかった? わからない? じゃあ、ヒントね。

 わたしの好きなものって、育てるのにとても時間がかかるの。育てるのに時間がかかるし、お手入れも大事。だからこそ、綺麗で長く生きてるものには、とってもすごいお値段がつくのよ。


 さあ、ここまでいえばわかったんじゃないかしら?

 わからない? それじゃあ、とっておきのヒントをだしてあげる。

 わたしの好きなものって、動物じゃなくて植物なの。それも、鉢植えにいれて育てるのよ。


 さあ、どうかしら? わたしの好きなもの、なんだと思う?

 …………そう! わたしの好きなものは、盆栽なの。

 あ、盆栽が好きな十一歳って、変なやつだって顔した。


 でもね、盆栽って、とても可愛いのよ。

 ちょうどいい時間にお水をあげると、プルプルと小刻みに震えて喜んでいるように見えるし、盆栽の枝葉につく水滴が、すごくキラキラして見えるの。

 わたしが特に好きなのは、やっぱり松の盆栽。


 松の表面って、力強そうに見えるけど、実際は、とってもデリケートなの。ちょっとした傷でダメになっちゃう。それに、水をあげすぎても腐っちゃう。かといって、お手入れを少しでもおさぼりしちゃうと、へそを曲げちゃってまともに育ってくれないの。とっても、手間がかかるのよ。

 それだけ手間がかかるから、うまく育ってくれてる松の盆栽には、なんともいえない魅力があるの。


 もちろん、松の盆栽自体の綺麗さもあるけど、それだけ手間をかけて松の盆栽を育ててくれた、盆栽の持ち主の松の盆栽に対する、ふっかぁ~~い愛情が松の盆栽からみえるのもステキなのよ。

 きっと、すごく時間と手間と愛情を注いで、この松の盆栽はできてるんだなって思うと、ね? とっても可愛くて、ステキなものだと思わないかしら?


 わたしの好きなものは、盆栽。わたしはこれからもずっと、盆栽を好きでいつづけるわ。それに、盆栽の魅力を色んな人たちに伝えたいとも思ってるの。えっと、今でいう推し活っていうのかしら?

 とにかく、盆栽はステキよ。盆栽は、盆栽そのものの綺麗さと、盆栽を育ててる人の、ステキな愛情。この二つがそろわなきゃ、盆栽はできあがらないの。

 一つのものに、ずっと愛情を注ぎ続けることって、とってもステキなことじゃないかしら。ねえ、あなた。あなたは、どう思う?

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わたしのおすすめ 日乃本 出(ひのもと いずる) @kitakusuo

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