12 気がつくと最近、よく君のことを考えている。
今年も、去年と(というか毎年と同じように)乙女の暮らしている山の中にある田舎の町には雪が降った。
冬に降った雪は春になると溶け出して、その下の大地からは、たくさんの色とりどりの花が咲き始めた。
そんな風景を見て、私は大人になった、と乙女は思った。(もうすぐ、実家を出て、東京で一人暮らしを始めるし)
東京に向かう電車に乗っている間、乙女は春山古風先生のことを考えた。
……先生。今頃、なにしているんだろう? まだ一人でご飯食べてるのかな?
今から目的地を変えて、春山古風先生のいる家まで(先生のいる海沿いの町まで行けば、あとはなんとかなるだろう、と楽観的に乙女は思った)行ってしまおうかな?
電車の外の緑色の風景を見ながら、そんなことを乙女は思った。
古風先生。私ちゃんと大学に合格できました。
それでこれから東京で一人暮らしを始めるんです。
どうですか? すごくないですか?
そんなことを古風先生に言いたかった。
古風先生。私、大人になりましたよ。それにもう、高校生でも、古風先生の教室の生徒でもありませんよ。
電車の窓に映り込んでいる自分の顔はいつの間にか笑顔だった。
古風先生は今も独身のままらしい。(纏が教えてくれた。生徒たちから人気者だった古風先生の噂はなんとなく、まだ乙女たちの高校にまで伝わっていた)
だから今もくせっ毛に寝癖をつけて、よれよれの(柄の変わらない)ネクタイのままで、いつもと同じセーターと見慣れたスーツを着ているのだろうと笑顔の乙女は思った。(思わず笑い出しそうになってしまった)
それは新しい草花の芽吹く、春の季節のことだった。
気がつくと最近、よく君のことを考えている。
乙女の旅 終わり
乙女の旅 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます