World War Another-異世界侵略者と、諦めの悪すぎる人類が絶滅戦争を覆すまでの顛末-
蔵持宗司
序章 -0day-
第零話 「北緯25度西経177度 太平洋中心部」
――初めに光があった。
北太平洋中心部。海中にそびえ立つ巨大なサンゴ礁の
水深五千メートルの海底付近の空間に『亀裂』は発生した。
地球人類があと千年は到達しなかったはずの次元物理学に準じた干渉が、世界の隙間を徐々にこじ開けていく。
一プランク長にも満たなかった『亀裂』は急速に育ち、やがて
そして――圧縮された。
圧力均衡によって五千トンの水圧にも耐える体構造を獲得した深海生物が、一瞬にして分子サイズにまで押し潰され、絶大な平面圧力によって切断される。消滅した断面からは極限高圧によって蒸発した物質が泡となってゴポゴポと浮かんでいく。
急激に成長した『亀裂』は亀裂ではなく、既に広大な『断層』と化していた。
断面積一キロにも及ぶ、色彩のない巨大な空間の断層。半透明な白い靄が生じ、オーロラに似た円環状の極光が海底に拡散する。
物理法則の隙間をこじ開け、宇宙と宇宙の境界を繋ぐ門。
その出現の瞬間、深い海の底で起きた異変に気付いた人間は、しかし地球上に誰一人としていなかった。誰もが普段通りの、平穏であったりそうでなかったりする日々を過ごしていた。
ジャーナリストの
新兵のレイド・フェルマーは、何度も命を落としかけながらアラスカの山野を駆ける訓練に明け暮れていた。
『凶獣』と呼ばれた
『帰還者』アリア・レイド・コールフォースは、まだ生まれてもいなかった。
外交官の
▽▲▽▲▽▲
そうして。
誰にも存在を知られないままに、
断層は空間を繋ぐ巨大な門だ。
深海の果てしない水量は、別の何処かに流れ込み始める。
穏やかな深層海流ではあり得ない暴力的な
それは、女の細腕だ。
色彩さえも読み取れない荒れ狂う海中に、その腕はゆっくりと指先を伸ばす。
泳ぐように。彷徨うように。探し求めるように。
直後。
海底が爆発するかの如く急速に
キロ単位の範囲で分厚い岩盤が海水を貫いてせり上がり、終端も見通せない巨大な岩の柱となって海上へと突き上がっていく。
水深三千メートル、水深二千メートル、水深千メートル。
そして海面へ。
海底火山の噴火よりも激しい速度で噴き上がった岩の柱は、その先端をわずかに海上に姿を見せる。
水面に突端が覗く頃には表面に無数の樹木が濃密に生い茂ってさえいた。
あたかも、新たな一つの島のように。
▽▲▽▲▽▲
北太平洋中心部、第一号
後にニューミッドウェー島の太平洋断層と呼ばれる、世界を侵食する最初の『断層』はこうして生まれ落ちた。
人類の絶滅を賭けた大戦の「はじまり」を人類自身が知るのは、もう少しだけ先のことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます