第3話 組織の色付けと整理

 第2話でどの組織にPLをどの粒度で紐づけるのか。という話を書いたが、その方針を決めると、必然的にPLの紐づく組織と、PLの紐づかない組織が生まれる。

 先の出版社の例で行けば、編集部=PLの紐づく組織。生産、営業、経理、総務など、それ以外の組織はPLが紐づかないため、経費の割り振り(配賦)を行う組織ということになる。

 制度会計では、製品を作る場合は原価計算が必須であるため、必然的に製造のサポートをする行為に係る費用や人件費は原価として製品に紐づけて計上する必要が出てくる。その際、多くの場合は下記2通りの方法がとられることが多い。

 ①1つは、部門・組織を役割に応じて、原価部門、販管部門に分ける方法で、製造のサポートをしているような部門は原価部門に分け、そのまま原価計算の中に組み入れる方法。

 ②2つめは、販管費として一旦計上しているものから、工数割合などをベースに原価に振り替え、その分を原価計算に組み入れる方法。

 ①は単純だが、組織がある程度大きく、組織役割がきちんと整理されている必要があり、②は、別途ヒヤリングや、工数管理の仕組みなどをつかって、どれくらいが製造サポートに寄与しているのか、客観的な裏付けとなるデータを取る必要がある。

 特にシステム開発などを行っている会社では②の方式を取っていることが多く、工数管理と労務管理を同時にやっているケースが多い。

 ITシステムの開発のようにある程度限られた製品開発案件が長期間にわたって行われるようなケースでは、開発案件それぞれに対し、「今日はプロジェクトAに3時間、プロジェクトBに4時間寄与した」などとプロジェクト単位で工数入力するようなことが可能で、②の方式に適している。

 一方、出版物のように開発期間が短く、案件が多いような場合には個々のプロジェクトに対する工数入力を個々人が行うのは難しく、①のようなやり方のほうが適している。

 原価計算では製品それぞれの原価に反映させなければならないため、①の場合でも原価部門の労務費(及び関連経費)を仕掛かり中の各製品に割り当てなければならない。そこで出てくるのが配賦の概念である。一番単純なやり方であれば、仕掛かり中の案件に均等に割り当てる形で、仕掛かり件数で労務費を割るということになる。

 私がいた出版社では、各編集部は原価部門とされており、その労務費や交通費等の経費で、案件に直課されないものは、その編集部の仕掛案件に均等に割り振られており、また、生産管理などの製造サポート部門の原価は、全編集部の仕掛案件に均等割りされていた。

 そういった原価と同様に、販管費についてもどういうロジックで最終的に製品にまで割り振る(配賦する)かが管理上は重要になる。

 再三書いている通り、管理会計は、様々なものの評価を行うためのものであるため、評価できる適正なロジックで費用配賦を行う必要がある。

 そのために重要になるのが組織の役割を明確化することだ。

 例えば、営業部門は商品を販売し、売り上げを獲得するために存在しているが、実際に行っている業務は多岐にわたる。

 物流コントロール、得意先との商談と請求、店頭販促、場合によっては宣伝行為などもやっていることがあるかもしれない。それぞれで発生するコストやそこにかかわる人件費をどのように製品に割り振るのが適正であるか。それはどこまでいっても決めの問題となるが、どういうロジックであれば働いている皆の納得が得られるかが重要になる。

 売り上げを獲得する部門なので、売り上げ比率で割り振るというのが一番単純なやり方だろう。だが、商品によってかかる手間が違ったり、物流コストが違ったりしてくればそれは不公平感を生む。

 利益最大化のためには、最も販促や宣伝、物流上で手間のかからない商品が、大きな売り上げをあげる状態こそが推奨されるべき方向性であり、そういうものこそ大きく評価されるべきであるという話は必ず出てくる。

 では、そういった手間のような計数化しにくい要素をどうロジックに織り込むか。究極的には、原価の配賦の②で挙げた通り、すべての売り上げ商品に対し、働く人がすべて工数を入力できればよいのかもしれないが、それだって恣意性を排除できないし、毎月数千、数万の売り上げ商品があれば、とてもそんなことはやっていられない。

 では営業の工数は何によって変わるのか、それを営業部門にヒヤリングし、例えばジャンル別に手間が変わるようであればジャンル別の比率を作り、それを売り上げにかけて比率をつくるというような方法もあるかもしれない。新商品と既存商品の販売では手間が違うということであれば、それを配賦ロジックに織り込んでもいい。そうやって関係者の納得感と、公平性、計算実務上の手間との妥協点を探ってロジックを作り上げていく。

 では、総務はどうだろうか、人事はどうだろうか。

 総務や人事、経理といった、会社を運営させるためのコーポレート部門は、多くの会社ではそこに働く人に対するサービス提供であるという整理が多く、組織それぞれの人に配賦を行い、それを今度製品に配賦を行っていくという2段階配賦を行ってるケースも多い。

 同様に、総務が計上している費用などでも家賃や水道光熱費、オフィスの減価償却費などは各部門の専有面積で割り振ったりと納得と公平性と計算の手間を鑑みて配賦ロジックを決めていく

 各組織が会社内でどんな役割を折って、どんな価値を生み出して、誰がサービスの受益者なのかといった部分をきちんと整理できていなければロジックを作るのは困難となる。

 したがって、管理会計をやる上では組織とその役割の整理が不可欠となる。

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