かげりなき明日を求めて

古屋志 直己

プロローグ

「おい! 須崎すさきお前またミス!」


その言葉に同僚が、眉をひそめる。


「また、この箇所まちがってるよ! しっかりしてくれ」


その言葉に同僚達は、溜息をつく。

いい加減治らねぇのか?とか、ホンマ終わってるあいつとか、

何しに会社来てんの?無能として食う飯って美味しい?ねぇ?

などなど、侮辱するような言葉が耳に響く。


「申し訳ございません。早急に修正いたします」


深々と、課長に頭を下げる。

下に見えるカーペットに見える影には、自分の

今すぐにでも消し去りたい残像が見えるだけ。


「当たり前だろ!早くしろ」


生きたくない……

そう思った。

でも、そんな僕にも取り柄があった。

小学生からこれだけは、という取り柄が。

それは、死にたいと思ったことが一度もないということだ。

生きたくないとは、思っても死にたいとは思ったことはなかった。

自発的に生命を投げ出す、じさつなるものを嫌っていたのだ。

でも、そんな者は他の人から見れば、遜色ない。殆ど変わらないことだろう。


「はぁ……」


ごくごく。


「……ぬるっ」


課長からの𠮟責で、昼に買ってきたはずの缶コーヒーが少しだけ冷めている。

そのコーヒーを傍に置き、パソコンに向かい合う。


残業なんて、当たり前。

何時しか、給与明細すら見なくなった。ものへの関心を失って、ただ生きているだけ。

会社という牢獄のただの働きアリ。

そんな、事を一年...

僕は、ついに退職届を突き付けた。


「お前?やめるんか??」


課長は、少々口元に笑みを作って嘲るようにいった。


「はい。お世話になりました」


会社内に沈黙が流れる。

一瞬と時が止まったかと思うような静寂。

でも、それもつかの間。


すぐ、課長は、こう言った。


「いや、お世話になり過ぎ。正直言って、普通に邪魔だったわ」


……


ガハハハッ、周りは大爆笑。

いや、課長それはっは!!!!、いや、流石っす!!皮肉で草!www

汚い俗語が、耳に突き刺さる。耳を閉じようにも手が動かない。

ガハハハッ!やべぇ、ちょーーーヤバいんですけど!

汚い、汚い、汚い、汚い。


(……誰か、鼓膜を破ってくれ)


「ガハハハッ」


笑いは収まらない。

僕は、震える足をなんとか、動かし。

外へと歩を進めた。


「はぁ……」


会社のエントランスをぬける。

そこには、一面の青空が広がっていた。

どう頑張ったて、彼らの呪縛から抜けられなかったのに、

今抜けられた、解放感に快感を覚えた。


「じゆうだ!」


僕は、そう呟き。

新たな一歩へと踏み出した。


そして、僕は学校の先生となった。

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かげりなき明日を求めて 古屋志 直己 @koyashi

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