無反応が勝ち
シヨゥ
第1話
「無反応でつまらねぇの」
彼はそう吐き捨てるように言った。ここまでボコボコにしておいて『つまらない』の一言。それはそれで殴られ甲斐がなくてなんだかなという思いがある。
「僕は君が嫌いだからね」
だからそう返した。もちろん防御の姿勢を崩さず、次の一撃に備えてだ。
「はぁっ!?」
予想通りの一発。体重移動でダメージコントロールは忘れない。
「やり返したら、君と同じになる。嫌いな君になるのは絶対に嫌だし、そんな自分は許せない」
後退って痛みが引くのを待つ。彼は一発がでかい。だが、数はそんなでもない。受け流し続けて疲れを待つ。そんな作戦で立ち回り続けてだいぶ時間が経過した。
「ただ君を嫌いだと判断している自分も嫌いたけどね」
作戦失敗。思った以上に体力があって正直会話で間をもたせないと辛くなってきた。
「なら俺がその嫌いな奴をぶっ飛ばしても文句ないよな」
『どういう理論だ』と突っ込む間もなく今日一番の一撃が飛んできた。
衝撃が受け止めた腕を貫通して肺が圧迫される。たまっていた空気が吐き出され咽る。そして宙を舞った。
「今日はこの辺にしてやるよ」
地面に叩きつけられて咳き込んでいるとそんな声が聞こえた。
「そうしてくれ」
声になったかどうか。ただその声が届かなくても災難からは解放されたようだ。
遠ざかっていく足音を聞きつつ体の力を抜く。途端に眠気がやってくる。
「限界か」
やり返さない。そして飽きが来るのを待つ。そんな自分に課した勝利条件を満たしたものの達成感はない。
「争いは虚しい」
本日の結論も出たことだし少し眠ろうと思う。
無反応が勝ち シヨゥ @Shiyoxu
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