本当にあった同級生の深刻な悩み

無月弟(無月蒼)

家族の証明

 ※これは、事実を元にしたフィクションです。



「なあ、俺がこの家の子じゃないって言ったら、どう思う?」


 親友の義弘がそんなことを聞いてきたのは、小学4年生の夏休み。義弘の家で、テレビゲームをしていた時のことだった。


 部屋にいたのは俺と義弘の二人だけ。テレビの前に並んで座って、コントローラーを握りながら、ゲームを興じている最中のこと。まるで世間話でもするように、サラッと言ってきたんだ。


 いきなり何言ってんだ? 

 どうせ何かの冗談だろうと思い、ゲームを操作しながら隣を見たけど。義弘の目は真剣で、悲し気だった。


 えっ、ひょっとしてマジなの?


 驚いて操作をミスり、ゲームのキャラが死んだ。


「おい、やられてるぞ」

「あ、ああ。いや、それよりもその、家の子じゃないって話。冗談だよな?」

「いいや、マジ」

「おじさんやおばさんが、そう言ったのか?」

「ううん。父ちゃんも母ちゃんも、俺が気づいてることに気づいていない。けど、知っちまったんだんだよ。兄弟の中で、俺だけが養子だって」


 俺は信じられなかった。

 だってこの家には何度も遊びに来ていたけど、おじさんもおばさんも優しいし。義弘には兄ちゃんや姉ちゃん、妹がいるけど、同じように接していたんだもの。なのに義弘だけが養子だなんて、思えなかった。


 けど寂しそうな目をしながら、ハッキリと養子だと口にした義弘を見たら。冗談で言ってるんじゃないって、わかっちまう。


 何て言えばいいか分からずに黙っていると、不意に部屋のドアが開いた。


「義弘、おやつ持ってきたわよー」


 おばさんが入ってきて、手にしていたお盆には二人分のジュースとケーキが乗っている。

 

「ありがとう母ちゃん。そこ置いといて」


 さっきまでの重たい空気が嘘のように、

義弘は返事をする。

 その変わり身の早さに、やっぱり冗談だったのではと思ったけど、おばさんが出て行った直後。


「俺が気づいてること、皆には黙っといてくれよ。本当のことを話してくれるまで、気づいてないフリをしておきたいんだ」


 だったらどうして、俺にそんな話をしたんだ?

 その時は疑問に思ったけど、きっと一人で抱えておくには重すぎたから。何ができるってわけじゃないけど、ただ話を聞いてもらいたくて、親友の俺に打ち明けたんだと思う。



 養子の話をしてきたのは、その時だけ。

 それからはまるで、そんな話なんてなかったみたいに、義弘は普通に振る舞っていた。


 あの後も義弘の家には何度も遊びに行って、おじさんやおばさん、義弘の兄弟達とも会ったけど、みんないい人達ばかりで、血が繋がっていないなんて信じられない。

 だからひょっとしてあれは、やっぱり冗談だったのかもって思ったけど、わざわざ触れる気にはなれずに。俺も今まで通りいることにした。

 変に気を使ってギクシャクなるのも嫌だったし、たぶん義弘もそれを望んでいんだと思う。


 そうして時が経つにつれて、次第に養子の話は忘れていってしまった。

 こんな風に言うと冷たい気もするけど、これは義弘とその家族の問題だもんな。

 時々思い出して、あれってどうなったんだろうな。もう真実は告げられたのかななんて、考えることはあったけど。


 だけど小学校を卒業して、中学生になったある日のこと、思わぬきっかけで事態は動いた。


 俺も義弘も同じ中学に進学していて、クラスも同じ。相変わらず仲良くやっていたんだけどさ。

 その日俺は、早く飯食いてーなんて思いながら、四時間の授業を受けていたんだよ。


 そうしているうちにチャイムが鳴って授業が終わり。俺は近くの席にいた義弘に、「飯食おうぜ」って言おうとしたんだけど。

 義弘は俺が声をかけるよりも先に席を立って、さっきまで授業していた先生の所に行ったんだ。


 アイツ勉強嫌いなのに、なんか質問でもあるのかな? 

 すると義弘は、先生にこう訪ねた。


「先生、A型の両親からO型の子供が産まれるって、本当ですか!?」


 それはさっきの理科の授業中に、先生が言っていたこと。

 両親共にA型でも、条件次第ではO型の子供が産まれる事もあるって話をしていて、俺も「へー、そうなんだって」思ったよ。


 急に質問してきた義弘に、先生は驚いた様子だったけど、すぐさま答える。


「ああ。両親が共にAO型の場合、4分の1の確率で、O型の子供が産まれる可能性はあるな」

「産まれるんですね! A型の親から、O型の子供が産まれることはあるんですね!」


 声を荒くして質問する義弘に、クラスの皆は何事かと目を向ける。

 俺も不思議に思いながらそのやり取りを見ていたけど。

 そしたら急に、義弘が泣き崩れた。


「そ、そうだったのかぁ~」

「おい義弘どうした? 何泣いてんだよ!?」


 急に泣き出した親友に驚いていると、義弘は目に涙を浮かべながら答える。


「俺の父ちゃんと母ちゃん、A型なんだ」

「う、うん?」

「兄ちゃんも姉ちゃんも妹も、A型なんだ。けど家族の中で俺だけ、O型なんだよ」

「そ、そうなのか。で、結局なんで泣いて……」

「だからさ。一人だけ血液型が違うもんだから、俺は自分のことを、どこかから貰われてきた子だって思ってたんだ!」


 ……………………は?


 義弘の話を聞いて思い出したのは、あの小学生の頃の夏の日の出来事。

 コイツは真面目な顔で、自分はこの家の子じゃないって言っていたけど。


「待て待て待て! それって、小学生の頃言ってたアレか? お前が養子だって言ってた、あの話か!?」

「うん」

「まさかお前、戸籍を見たとかじゃなくて。血液型が違うから勝手に自分は養子だって思い込んでたのか?」

「うん」

「小学生の頃から、今日まで!?」

「うん」


 義弘の告白に、何事かと注目していたクラスの皆は、シーンと静まり返る。そして次の瞬間。


「ははははははははっ!」

「何勘違いしてんだよ!」

「バカじゃねーの!」


 クラス一同大爆笑。

 そりゃあ年単位でとんでもないボケをかましていたんだ。笑いもするわな。

 

 つーか俺も、笑いを堪えられそうにない。

 義弘お前、人生使ってコメディやってんじゃねーよ!


「笑うなー! 俺はな、本気で養子だって信じていたんだよ。いつ真実を告げられるか不安で不安で、仕方がなかったんだ!」

「お前が勝手に勘違いしてただけじゃねーか!」

「そりゃあそうなんだけどさ。毎年誕生パーティーの度に今日こそお前は養子だって言われるんじゃないかってビクビクしてたから、ケーキの味なんて分からなかったし。中学校入学の祝いに料亭に連れて行ってもらった時も、ついにこの日が来たんじゃないかって思って、気が気じゃなかったんだよ!」


 だからそれ全部、お前が勘違いしてたせいだろ。

 だいたい毎年誕生パーティー開いて、入学祝いに料亭に連れて行ってくれるなんて、良い家族じゃねーか。


 つーかそんな勘違いに、俺は巻き込まれてたってわけか。

 俺の心配返せ!


「義弘よう。とりあえず今夜、父ちゃんと母ちゃんに謝っとけ」

「……そうする」


 義弘は安心したような。だけどどこかスッキリしないような、複雑な表情を浮かべるのだった。


 で、義弘はその日の夜、父ちゃんと母ちゃんにこの事を話して確認してみたけど。やっぱり養子じゃなかったそうだ。

 戸籍を見せられて、家族全員から大笑いされたって、後日恥ずかしそうに言っていた。


 家族の中で一人だけ血液型が違うからって、勘違いしちゃいけねーな。



 おしまい。



 ※このお話のストーリーはオリジナルですが、家族の中で一人だけ血液型が違うせいで自分は養子だと勘違いしていた同級生は、実際にいました。

 けど笑い話ですんだのですから、よかったですよ。

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本当にあった同級生の深刻な悩み 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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