即興小説集

丸山悠

金八

都立双羽黒高校は、5%という驚異的な進級率を誇る。

これはどういうことかというと、一学級に40人の生徒がいるとすれば、2人進級できるということを意味する。

言っておくが、進学率ではない。進級率である。一年生から二年生になれる人間が、40人中2人という意味だ。

進級試験が難関というわけではない。

単にどいつもこいつもバカばかりで、出席日数が足りずに留年しているか、あるいは退学したか、大抵はそのどちらかである。


生徒ばかりではなく教師も、どうしようもないクズが取り揃っている。

そもそも、担任教師が教室に来ること自体が稀である。基本自習であり、教卓の上においてある出席シートに各自○をつけることで出欠確認を取る場合が多い。

律儀に毎日学校に来るだけで卒業できる。テストを受けるだけで学内偏差値70を軽く超えられる。素晴らしい学校である。

教師は公務員であるにも関わらず副業に積極的で、先日罷免された教師は、覚醒剤の密売でパクられた。

インターネット詐欺で連座した教員もいる。

翌年まで在籍している教員が3割に満たないという点からも、この学校の特異さが推し量れるというものだろう。


さて、ある日そんな学校に、一人の教師が赴任した。

金田一八郎、通称金八という名のその教師は、数々の不良生徒を更生させたという敏腕教師だった。


彼は着任初日から、学校改革を目標に据えていた。

「腐ったみかん」の話をするために、ダンボールに生徒の数分みかんを詰めて。


しかし、彼の教室には、誰一人として生徒は来なかった。

それは、終業式の日まで続いた。

入学式から終業式まで、誰一人登校してこなかった。年間登校率0%。しかしそれも、双羽黒高校ならば決して珍しい数字ではない。


生徒の家まで迎えに行こうにも、名簿に記載されている住所はすべて偽の住所、電話番号はすべてつながらない。


教頭に直談判しようにも、教頭も来ない。校長も当然来ない。


金八が赴任したことを知っている者は誰もいない。

彼が辞めたことを知っている者も誰もいない。


みかんは金八が美味しくいただきました。

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即興小説集 丸山悠 @yumaruyama

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