第10話 【記憶の片隅】
「いや、大丈夫だよ。僕は大丈夫」
あぁ、やだな。目を合わせてよ。ちゃんとこっちを見てよ。じゃないと、僕が言いづらく…。
「やっぱり、皆知ってるもんね。いいよ。ゆっくり話そう、僕だって分かってるんだ。今さら、どんなに悩んでも変わらないことぐらい…。それに!言葉にする方が僕も気持ちが変わるかもしれないから…」
気付くと、皆はただ静かに、僕の周りまで来ていた。鈴も哥奈に引っ張られて、僕のことを見つめていた。
(喜)「で、でも!僕は、やっぱり、どんな理由があろうと、悲しい思いさせたくないよ…。もうあんなことにはなって欲しくない」
「大丈夫!もう、決めたから…」
目を閉じ、1度息を吐いた。もう、心を塞ぎたくない。理椿として、ちゃんと生きたい。
「僕がこうなってしまったきっかけは、確か小学2年生のあの夏休みだったっかな。僕の父は警察官で、いつも沢山の人を救うヒーローだった。父も沢山の人の笑顔が生きがいで、仕事で毎日忙しい人だった。帰ってからやたまの休み、疲れているはずなのにいつも遊んでくれた。だから僕は寂しくなかった。僕にとってそれが当たり前だった。幸せだった。だけどあの日、僕のせいで。僕が、幸せを壊して逃げたんだ」
そうして、話し出した…。辺りは、まるであの頃の僕を表すように。キラキラした空に雲がかかりはじめた…。
ーーミンミーン ミンミーン
僕にとって大好きな季節。太陽が、キラキラと一年の中で最も元気に明るく照らしてくれる季節。僕は、夏が大好きだ。いつも、仕事で忙しい父が夏休みだけでもと、必ずどこかへ連れてってくれるんだ!いつも、いつも、一生懸命に仕事と向き合う父が僕は大好きだ!父はいつだって沢山の人の幸せを守ってた。だから、忙しくても必ず夏休みはどこかへ行くこのたった数日が僕にとって、1番大切な時間。
「理椿ー。準備できた?」
「ちょっと待ってて!」
僕は母にせかされ急いで部屋から飛び出す。沢山たくさん、したいことがありすぎて、大きな荷物を持って家を出た。待ちに待った夏休み!今日は久しぶりに家族3人で出掛ける日!
「はい!もう大丈夫だよ!」
「よし!じゃあ理椿、今日は沢山遊ぼうな!」
「うん!パパと出掛けるのとっても楽しみ!」
笑顔いっぱいで始まった一日。パパもママも今日はとっても笑顔!
「ママ!今日は、まずどこ行くの?」
「まずはね。旅館って行って、温泉や美味しいご飯が食べられる、2日間止まる場所にまずは行こうね」
「えぇー。海じゃないの?僕パパとたーくさん泳ぐために、沢山練習したんだよ?」
「そうだね。理椿、楽しみで練習も何回もしたんだもんね。着いたらすぐ行こうね」
「おぉ!理椿が、どれくらい泳げるようになったのか楽しみだな」
そうして、出発した僕たちの車は、長い長い、どこまでも続くような高速道路を走り出した。少しずつ変わっていく景色が楽しくて仕方が無かった。
着いたらまずは何しよっかな?
君と出逢ったもう一つの世界 桜 実彩 @hari_nezumi88
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