第8話

「みんな、無事か!?」

 悠二の放ったボールの着弾点が離れていたことと、衝撃のほとんどが向こう側へと被害をもたらしたおかげで、爆風による被害は最小限に抑えられたらしい。

 爆風によって巻き上げられた土煙が収まるに従って、討伐隊の面々も次々と立ち上がり、自分の状態を確認し始める。

 幸い、大きなケガを負った者はいなく、ソラの治癒魔法で完治できる程度で済んだようだ。

 もはや、レッサーデーモンの脅威など吹っ飛んでしまうほど──実際、吹っ飛んでしまっている――だ。

 何せ、先ほどまで小高い山ほどもあった森の隆起がなくなり、沈んでしまっていた太陽から再び光が届けられているのである。

 一瞬にして地形が変わってしまったことに、団長をはじめ、すべての者が乾いた笑いを上げてしまう。


「す、すみませんっした!!」


 思っていた以上の結果に、悠二は地面に頭をぶつけるくらいの勢いで腰を直角よりも深く折り謝罪を口にした。

「あ、ああ……。うん。大丈夫、じゃ、ないかな? この辺の山で仕事してるのはアントニーくらいのものだ。村も近くにはないから、レッサーデーモンに蹂躙されるよりはマシだっただろうさ」

 団長は、肉体的というよりも精神的にドッと疲れた、しかし、どこか安堵した表情で告げる。

 この後、爆音を聞きつけてやって来た村の者と合流すると、再びレッサーデーモンが現れる前に魔石を回収してこの日の騒動は一段落となったのだった。


「頂いちゃって良いんですか?」

 翌朝、村長と自警団の団長、更にソラといった面々が悠二のもとを訪れると、革袋にパンパンに詰まった硬貨を渡してきたのだ。

「こいつは魔石の買取報酬だと思ってくれ。本当はもっと高値で買い取らなければならないんだが、ここは辺境の村で貯えが少なくてな。すぐに支払えるのはこれだけしかないんだ」

 団長が申し訳なさそうに口にするが、悠二としては多いのか少ないのかもわからない。そもそも、衣食住に困る生活をしていなかった上に、恵まれた環境で野球に打ち込んでいたので遊興費が必要になることもなかった。

 とはいえ、異世界で生活していくには必要であることは不安材料のひとつだったこともあり、ありがたく頂戴することにした。

「報酬が足らない分は現物支給としてレッサーデーモンの魔石でお渡ししますね。これだけの大きさなら、街で換金すればかなりの額になるはずです。魔物除けの処理もしてありますので、安心してくださいね」

 魔石は魔力の結晶のようなもので、悠二の感覚からしたら電池に近い使い方をするらしい。昨日の討伐では悠二が無心になって討伐した結果、数年分の魔石を回収することができたらしい。

 騒動の原因であろう自分が報酬を受け取ってもいいものかという葛藤もなくはなかったが、魔石の回収だけでなく、森に潜んでいた多くの魔物が消えたことの方が朗報であったらしく、感謝の気持ちの方がはるかに大きいようだ。


 ……この後、なんやかんやあって世界を旅して回ることになるのだが、悠二の戦いはこれからだ! ということで、ひとまず幕を下ろすことにしよう。

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野球を愛し野球に愛されし者、野球のない異世界に降り立つ。 おとのり @otonori

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