第128話 返却

※登場人物は仮名です。


数日前に接待の場で、資材会社の営業マン・山本課長が紹介されて初め会った建設会社の社長・川端氏


同じく同席していた、紹介者である社長・筒井氏から連絡があり


その川端社長が別宅マンションで何者かに刺殺されたという


山本さん「えっ?!どうして??」


筒井社長「いろいろ巻き込まれたんやろうな・・・」


「巻き込まれたって、どういう事ですか??」


「私も聞きたいくらいですわ」


亡くなった川端社長は40代前半、見た目からしてヤンチャ上がりな感じだったが・・・


その日の夜。


接待を終えた山本さんが、客と別れてタクシー乗り場に向かう途中にある、神社の境内を通り抜けていると


突然、暗闇から3人の男が現れた。


「兄さん、ちょっと聞きたいことあんのや。ツラ貸してんか」


「私ですか?えっ、なんでですか?」


「あんたこないだ川端と飲んどったやろ」


川端・・・あの殺された男か!


「えっ、私はただ、知り合いに紹介されて・・・」


「その紹介した知り合いっちゅうのは筒井やな?」


「あっ・・・はい」


「今、電話できるか」


「今ですか?」


「どこおるんか聞いてくれ。お前、巻き込まれたぁないやろ?」


「は、はい」


山本さんは震える手で携帯を取り出すと筒井氏に電話をかける


出ないでほしい・・・そう思いながら5コールほど鳴らしたところで電話を切る


「あの、出ません」


「切るの早すぎや、ずっと掛けとかんかい」


「はっ、はい」


とそこに筒井氏から着信があった


「あっもしもし?!」


『・・・筒井ですけど。どないしました?』


「あの、今、どちらにおられます?」


『野田ですわ。どないしはりました?』


「・・・今、野田にいると」携帯を手で覆いながら男たちに伝える


「野田のどこや?」


「あの、野田のどちらにおられますか?」


『ん?なんで?いま、野田の・・・山本さん、「はい」か「いいえ」で答えてくれる?なんか、ヤバいんか?』


「はい」


『山本さんがヤバいのか?俺がヤバいのか?』


「・・・はい」


『わかった切るわ』


「あっ・・・切れました」


「どこおるって?」


「野田としか・・・急に『切るわ』と言われて」


「もっかいかけてみ」


山本さんは再度筒井氏に掛けたが繋がらない


「電源が入ってないみたいです」


「なんやあいつ勘付きよったか。あんた、変な合図送っとらんやろうな」


「まさかまさか!」


「ほうか。あんたには何もせんから、もうちいと付き合うてんか」


山本さんは3人の男に促されるまま移動する


途中で騒ぐか逃げるかしようかとも思ったが、どのみち自分の身元はバレている気がした


駐車場に停めてあった黒のクラウンに乗せられ、結局その後1時間ほど車内に軟禁された


数回電話を掛けさせられたが、もう筒井氏には繋がらない


「あの本当に私、何が何だか・・・筒井社長もお取引上の知り合いってだけで・・・」


「あんた、川端から何か預かっとらんか」


「えっ?川端さんはあの日、初めてお店でご一緒しただけですよ??」


「ほうか・・・まあ信じたるわ。ほなあんた、これで帰ってええけど。もし筒井から電話あったらここに掛けて教えてくれ。あと、このこと誰にも言うなよ。分かっとるな?」


「わっ、分かってます!」


山本さんは渡されたメモを掴むと車を降りる


黒のクラウンは静かに駐車場を出て行った


あぁ・・・殺されるかと思った・・・


捨てはしないがメモの電話番号になど、掛けることはないだろう


なんだか分からないが筒井氏は、面倒なことに巻き込んでくれたものだ・・・


その数日後


現場から噂が回ってきて、どうやら「筒井工業の社長」が行方不明だという


山本さんは数日前のことについてダンマリを決め込んでいた


すっかり忘れていたが、川端氏を紹介されて飲んだ日に筒井氏から預かっていた、発注書類の入った封筒を鞄に入れたままだ


経理部に渡しておかねば・・・封筒を事務員に渡す


「山本さん、これも入ってましたよ」


封筒を開封した事務員から『山本様』と書かれた二つ折りの小さな封筒を渡される


開封すると中には、小さな赤いUSBが入っている


嫌な予感がする・・・


山本さんはそれをネットカフェで開くことにした


仕事帰りにわざわざ電車で家と逆方向の駅で降り、前もって調べていた店に入る


割り当てられた部屋のパソコンにUSBを差し込んでみたが、暗証番号で開けないようになっている


後日山本さんは、親友のMさんにある程度の事情を打ち明け、そのUSBを渡した


特に嫌がることもなく受け取ったMさん


M「ふふ、お前がもし消されたら次は俺が狙われるわけやね笑」


山本さん「それって俺が口を割る前提じゃないか。念の為念の為。宜しく頼む!」



「・・・まあそんな経緯があって、更にお前に預かってもらってたんだけど」


「なんですかそれ、じゃあヤバいことに巻き込まれてたんですか俺?!」


「いやいやそんな、実際USBの中身が何なのかも分からんし。たださっきも言ったように山本が急死したから」


そんなわけで俺は、5年間預かっていたUSBをM先輩に返した

https://kakuyomu.jp/works/16816927860625905616/episodes/16816927862354720454

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