第428話 特にオチのない話

「なあ、Tくん。夜、眠りにつく時、怖いと思ったことはないか?」


飲んでいた席で突然、M先輩に聞かれた


「どういう事ですか?」


「うん、寝たまま起きなかったら、ということ。」


「死ぬってことですか?」


「ウチの親父がさ、夜眠りに付いたら朝方、いつの間にか死んでてな」


「ああ・・・」


「悶え苦しみながら死ぬよりはマシだと思うか?」


「いや、そりゃぁ・・・ジワジワ死ぬよりもスパッと死んだ方が」


「・・・悩まなくて済むかな?」


「う~ん、やり残したことをあれやこれや考える時間が無いですけどね」


「そこそこ。整理しとかなきゃいけないことって、あるだろ?個人的に、こっそり」


「いきなりこんな話するから、てっきりスピリチュアルな話かと思いましたよ」


「ちがうちがう。PCに保存してる画像とか、LINEの相手とか」


「どーんと低俗になりましたね笑」


「俺、急に不安になってな、先日いろいろ整理したんだよ」


「なんすか急に。死の予感がしたのですか?」


「いや違うけど・・・で、ヤバそうなもの、まあデータをね、USBにまとめてだな、暗証ロックかけてだな」


「その暗証番号を忘れたと」


「そんなマヌケなことしない、そうでなくてそのUSBを、じゃあ、何処に置くのか。保管するのか」


「額縁の裏とかね」


「見つかった時に余計怪しいだろ、そんなの。で、プロじゃないからさ、指紋認証とか生体認証とか暗号化とか、分からんしさ」


「なんか犯罪にでも手を染めたのですか笑」


「ふふ、そうそう。で、ネット見てたら皆、似たようなこと考えてるんだな、庭に1mの穴を掘るとか、鶏肉の中に包んで冷凍庫に入れておくとか」


「体内とか」


「ああ、それもあったな笑」


「俺はですね、もう、バレたらバレたで一瞬の恥で済むじゃないですか。死んでるなら、それすら分からないのだし」


「放置するの?」


「そんなに隠したいものがあるのですか笑 なんなら俺が預かりましょうか?」


「うん、預かって、これ」


先輩は赤いUSBを財布から出してきて俺に差し出す


「えっマジな話っスか??」


「うん」


「えー無くしますよ俺」


「それはあかん」


「いったいこれ、何なんです?ヤバいんですか?マジで犯罪とか嫌ですからね」


「そんな訳ないだろ」


「えー何なんです?」


「まあ、聞かないで」


「いやいやいや、まだ預かるって言ってませんよ」


「何だよ、預かりましょうかって、さっき言ったじゃん」


「なんすかその子供みたいな返し!」


「な、頼むわ」


「えー、いつまで預かっておくんです?」


「ずっとよ」


「えぇー?!」


そんなわけで託された赤いUSB、もう3年も俺の手元にあるのだが・・・あ、先輩は健在です。

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