城ケ崎先輩の役に立たない推し活アイデア
タカば
推し活
うちの大学には変な先輩がいる。
名前は城ケ崎芽衣子。
一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。
そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。
実に面倒な先輩である。
「真尋くん、いいことを思い付いたぞ」
「……何ですか」
そろそろ日も傾きかける時刻。
コタツでごろごろしていた城ケ崎先輩はすくっと立ち上がってそう言った。
「推し活をすればいいんだ!」
「……はあ」
城ケ崎先輩はお忘れのようですが。
会話は主語と述語と目的語で構成されるものです。全て差っ引いて結論だけ突きつけられても、何を言ってるのかわかりません。
「なに、生活に刺激を加えるアイデアだよ。日がな一日コタツでごろごろして惰眠を貪る日常というものは心地よいが、変化に乏しく退屈しがちだからな」
わざわざ人の家に上がり込んでダラダラしておいてその言い草はなんなのか。
「日々をただ無為に費やすのではなく、『推しのために』という目標を掲げて過ごせば、張り合いが出るというものではないかね」
「言いたいことはわかりましたけど、具体的にはどうするつもりです? 推しの出演する舞台のチケットでも買うんですか」
「チケットなんて買わないよ! だいたい私の推しは芸能人なんかじゃないからな」
「んん……?」
俺の記憶が確かならば、推し活とはそもそもアイドルや俳優などの『推し』を応援するための活動ではなかったか。確かに、怠惰といい加減と屁理屈を足し合わせたような城ケ崎先輩が、世間一般で言うところのキラキラ芸能人を推すようには見えないのだが。
「ちっちっち、甘いぞ真尋くん」
絶妙にイラッとする笑顔を浮かべて、先輩は人差し指を左右に振った。
そこそこたわわな胸が、腕の動きに合わせてゆらゆら揺れる。
「確かに推しの発祥はアイドルファンだが、言葉が一般に知られるようになったことで、意味が広くなった。ジャンルにこだわらず好きなものなら何でも推しと言って構わないのだ」
「……それで、何を推す気です?」
「これだ!」
得意満面で城ケ崎先輩はグロ邪神の描かれた写真たてを突きつけてきた。
「私の推し邪神、ニャルラトホテプだ! かっこいいだろう!」
燃やしたい。
ガスバーナー的な何かで。
俺が黙っていると、城ケ崎先輩は写真たてをいそいそと部屋に飾り始めた。
「邪神の尊顔を部屋に配置し、常に崇め奉ることにより生活に潤いを得る! 最高の推し活じゃないか!」
城ケ崎先輩はお忘れのようですが。
この部屋の家主は俺です。
邪神崇拝は自分の部屋でやってくれませんかね。
「……そんなに楽しいんですか? これ」
「ああ、最高だ!」
「じゃあ、俺も真似してみますか」
「へ」
俺は本棚から青年誌を引っ張り出した。
人気のアクション漫画目当てで城ケ崎先輩が持ち込んだものだ。ぺらぺらとめくると、最初の数ページのお約束通り、アイドルの水着グラビア写真が出てくる。
適当に一枚切り取って、邪神の隣に飾ってみる。
「な……」
「これで拝めばいいんでしたっけ?」
先輩の真似をしてやると、彼女はぷるぷると震えだした。
「や、やめ! 推し活はやめだ! なんかゾワゾワする!」
「なんで?」
「なんででもだ! 推し活は却下―!!!」
今日も城ケ崎先輩のアイデアは、役に立たない。
城ケ崎先輩の役に立たない推し活アイデア タカば @takaba_batake
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