第2話  生まれた日


8月30日(土)、この日は剛の誕生日である。

今年で28歳になる剛にとって、嬉しいとも言い難い複雑な感情が入り混じっていた。


「いつからだろうなぁ。誕生日を素直に喜べなくなったのは。

確かに特別な日とは思うけど、社会人になってからは誕生日でもいつもと変わらない日常を過ごすから、少し寂しくなるなぁ(笑)

彼女でもいればプレゼントをもらえたりセックスできたりして、楽しいんだろうな。」


 もう何年も彼女のいない剛には、リア充に対して、計り知れない劣等感があった。

イベント事がある日や何か節目となる日には、決まって卑屈になってしまう。


「誰かに祝ってもらいたいわけではないけど、今日は一人で過ごしたくないな。こんな時は信幸でも誘うか、あいつなら暇してそうだし。」


信幸は剛と幼馴染で同級生の大手生命保険会社に勤務している男である。

信幸には3年間付き合っている彼女がいて、結婚まで秒読みだった。卑屈な剛とは

違って社交的で友達も多く、基本的に予定がある男だが、剛の誘いは断らないようにしている。

それはある種、使命感である。

友達の少なく、優しすぎるがあまり自己主張ができない剛を見て、幼馴染としてほっとくことができないのである。信幸もまた、優しい男だった。


18時になり、剛と信幸はいつも飲みに行く居酒屋『豚奴隷』に集まった。


この日は剛の誕生日ということもあり、お酒のペースも早かった。お互い4杯ほど生ビールを飲み、いつもの信幸のお節介が始まった。

「つよし~、お前はまだ彼女を作らないの?」


剛はこの言葉が嫌いだ。


(彼女を作らないのって、俺に喧嘩を売っているのか?俺だって彼女がいらないわけではないんだよ。アプローチの仕方が下手で女の子に響かないから、作ろうとしても上手くいかない。

お前は簡単に彼女を作れるかもしれないけど、俺からしたら付き合おうと思ってもなかなか上手くいかないんだよ。)

そう心の中で思ったが、口に出すのは辞めた。


「まあ、俺はお前と違って派遣社員だからさ(笑)もう少しお金を貯めてからでもいいかなって思っているんだよね。女の子と付き合うのって、お金かかるじゃん。

お前こそそろそろ珠理奈ちゃん(信幸の彼女)と結婚しろよ」


信幸は剛の言い訳を聞くや否や、急に立ち上がり大きな声で剛に訴えかけた。


「またお前はいいわけかよ!そんなんじゃいつまで経っても童貞のまんまだぞ。

俺はお前に変わってほしいし、幸せになって欲しいんだよ。」


あまりの大声に居酒屋中が静まり返った。

信幸は周りに会釈をして座席に座り、再び剛に話しかけた。


「再来週の土曜日に、合コンセッティングしといたから。相手は珠理奈の友達が2人が来るらしい。俺からのささやかな誕生日プレゼントかな。絶対参加しろよ。そしていい出会いを見つけような。」


剛は合コンの話を聞いて驚いた。

「信幸、お前は俺のためにそんな準備までしてくれたのか。

そうだな、言い訳して逃げるのは良くないよな。どこかで恋愛で傷つくことを恐れているのかもしれない。ただ今回は俺も参加して、いい出会いを見つけるよ。」


こうして二人は仲直りをして、再来週の合コンの話をするために2件目へといった。


何故か店内で童貞を暴露されたことだけが少し不満だったが、楽しい28歳の誕生日を迎えたのだった。

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