新幹線でも軽率に尊死出来る

仮設東京駅ホームにて

度重なる大戦と災害により荒廃した日本。復興が出来るかも怪しくなっている。そんな中とあるイベントが開かれた。実行すれば電気インフラが崩壊する可能性があるとも警告されていたが、生き残った人々はそれをのぞみついにその日に至った。

きっかけは大戦終結後。各鉄道会社が開始前に歴代全ての車両の必要最低限の整備設備とパーツを詰めた車両を新高尾地下操車場に保管していたのが見つかった。整備用資料と偶然にも生き残った100名近い保守・保線員によって整備され、運行可能な状況までになったそれが数日間新高尾地下操車場で出番を待っていた。

そしてつばさを広げる日が来た。やや脆かった地下操車場の内壁が崩れ土埃を被っているが、動き始めればそれが舞落ち尾を引いて行った。そして仮設東京駅へ向かってゆく。本当ならばフル編成にしたかったが、多くは損傷が激しく最終的に検査車両であるドクターイエローとEast-iを除いて4両1編成になってしまった。

全ての車両が仮設東京駅に入線完了し続いて改札が開放され人が流れ込む。執念で見に来た人も含めて集まったのは1,000人以上。各々が見送りたい車両へと通路を階段を駆け抜けていく。同時に無理矢理繋いだ通信網を独占した中継も始まる。首相演説開始と同時に降り始めた通り雨が演説終了と共に止み、車体がかがやきを取り戻す。

仮設東京駅はホーム8面と4-5番ホームの間に3線追加された8面11線の配置になっている。

各ホーム仮設新大阪・仮設博多・仮設鹿児島中央方面と6番線には、車両呼称

『08-RBT-0系』

『12-RBT-100系』

『12-RBT-300系』

『30-RBT-700系』

『30-RBT-700系E編成』

『35-RBT-N700系』

『35-RBT-800系』

『45-RBT-N700A系』

『45-RBT-N700S系』

がそれぞれ1編成ずつ、仮設金沢・仮設新潟・仮設秋田・仮設新庄・仮設新青森・仮設新函館北斗方面と8番線には車両呼称

『10-RBT-400系』

『12-RBT-E1系』

『13-RBT-200系』

『21-RBT-E4系』

『28-RBT-E2系』

『33-RBT-E3系』

『45-RBT-E5/H5系』

『45-RBT-E6系』

『45-RBT-E7/W7系』

が並ぶ。中央7番線には検査車両である『923形ドクターイエロー』と『E926形East-i』が各々の仕事場に向いて停車中。

本当なら『922形ドクターイエロー』や『E3現美新幹線』など足りないものも多いがそこは諦めるほか無さそうなのが少し悔しくもある。まぁ一部他企業との利権の兼ね合いなどがあるのもあって自主的に運転取り止めにしたものや、設備流用などで解体せざるを得なかったのも理解出来るが故更に悔しい。

言い出せばキリがないからその諸々は内に留めて今の姿を精一杯楽しもう。旧東京駅職員だった人がマイクを握りアナウンスする。

「間もなく7番線仮設新大阪・仮設博多・仮設鹿児島中央方面から923形ドクターイエロー、仮設金沢・仮設新潟・仮設秋田・仮設新庄・仮設新青森・仮設新函館北斗方面からE926形East-iが発車します」

それを合図に全車両が一斉にライトを点灯し、ドクターイエローとEast-iが

『東京より西のメインは任せたぜ』

『最北端まで走ってこい』

と互いに振り向き合う事無く出て行く。

続けてアナウンス。

「間もなく、各線より9時台45分から50分発、『きぼう』『未来』ゆき発車致します。黄色い線までお下がりください」

これを機に続々と出発して行く新幹線。かって日本の長距離移動の一翼を、そして観光の一翼を担ってきたモノ達がゆっくりと走り出して行く。

そして暫くの後。

はやての如く駆ける姿がギリギリ残っていたネットの掲示版に載せられた事をきっかけに写真や動画、更にはそれを描いた絵、詩や小説まで次々と投稿されて行く。

さくらが舞踊り、つばめが遊ぶ地を駆け抜ける白い姿が写真に収められた写真があった。

緑の車体がはやぶさと並び走る一瞬を見事に切り抜いた絵があった。

保護施設から連れ出されたときの鳴き声と共にシルバーにグリーンの車体が途中駅を出発する動画があった。

芽吹き始めた山につるぎで穴を穿つが如く駆け抜けるゴールドのラインを鮮明に詠み抜いた歌があった。

そこで首相のスピーチが思い出された。

「残されたそれぞれの運転席には、最後に新高尾地下操車場へ車両を移送した運転手と整備士達の手紙が残されていました。そしてその全てにこう残されていました。

『この先大戦の火をくぐり抜け災害に耐え抜いたこの国がこの車両を見つけた時、生き残った人々に希望を届けるひかりである事を願って』

と。そしてそれを知り今日このイベントを企画し協力してくれた皆さんには感謝しかございません。例え人が乗り走れなくとも、車両には皆さんの『希望』が沢山乗り込んで行きます。新たなる復興の証として、新たなる復興の光として今ここに揃っている20編成を見送りましょう！！」