第16話 彼らの所在はどこにある!?(後編)

 今、俺と先生は人っ子一人いない真夜中の草原に佇んでいた。これから誰に会うのか、そして無事でいられるのか、全く想像もつかない状況だった。


「さあ! 須永君、待ち合わせ場所はここだ!」


 先生は何故かは知らないがかなりテンションが高い。


「あの……何でそんなに嬉しそうなんですか?」

「なあに……昔馴染みに会うからね。少しばかり懐かしくて興奮してしまったようだ」

「え? 昔馴染みですか?」


 そんな知り合いがいるとは初耳である。

 先生は鼻歌を口ずさみながらウキウキして待っていると、空が突然昼間のように明るくなった。

 これはどう考えても不自然だ。いやそれだけじゃない。空の上には――


「せ、せせせせせせ……せん……せ。あの空に浮かんでいる……巨大な円盤って……」

「うむ。時間通りだね。須永君はUFOを見るのは初めてかい?」

「そんなもん普通は見かけませんよ! しかもこんなに近くで!」


 そう。上空には直径100メートルはあるであろう円盤型の宇宙船らしきものが浮かんでいたのだ。

 この世のものと思えない光景を前に俺は腰を抜かしそうになったが、先生は全く動じていなかった。


「ん。降りて来るぞ」


 その一言と共に、円盤から地上へ向かって一条の光が照らされる。その光の中から現れたのは……。


「いやあ。久しぶりだね。元気だったかい?」

「〇×★7◎◆△!」

「そうかそうか。ご健勝でなにより!」


 先生と楽しそうに会話しているのは、背丈が低く肌は灰色。体毛も見当たらない異様に眼球が大きい二人の生物だった。

 いわゆるグレイと呼ばれる宇宙人だ。間違いない。俺は確信した。

 だが、あまりにも現実離れした存在に頭が追い付かない。


「ああ、すまないね。紹介しよう。こちらの方がウッくん、そして隣にいるのがチューさんだ」

「○□■☆8▭▼」


 宇宙人らしき二人は俺の方を向くと何やら首を傾げていた。


「△▼。1☆彡?」

「ああ。まあ色々あってウチで働いてもらっている」


 先生が何やら俺を紹介してくれているらしい。宇宙人さん達は何やら空中にモニターの様なものを出し、自分の瞳の前に移動させた。

 何だろう? モニター越しに俺を見ているが……。


「+▽○○▭☒」

「初めまして。我々は根木野殿に呼ばれて来た者だ。どうぞよろしく。ああそれとお土産があるよ♪ ……と言っているな」


 当り前のように先生が宇宙人の言葉を翻訳している。本当にこの人は謎だ。


「お土産って……」


 俺の疑問に答えようと宇宙人さん……、顔の見分けは付かないが、ウッくんが容器の様な物を差し出して来た。

 中身を先生と共に見ると、そこにはスーパーなどでよく見かける肉の様な物が入っていた。


「ま……、まさか!? 宇宙生物の肉ですか!? 食べて大丈夫ですかコレ!?」

「=ー*▤¥1●▶」


 俺の問いに一生懸命身振り手振りで答えている様に見える。


「急な呼び出しだったから翻訳機は持っていないようだね。須永君、これは普通の牛肉だよ。キャトって手に入れたと言っているし、ちゃんとアメリカ政府の許可も下りているそうだから、ありがたく貰っておこう」

「キャトって……? 意味わかりません」

「キャトルミューティレーションといって、一時期多かっただろう? 家畜の血やら内臓が取り出されて謎の死を遂げている現象が」


 要するに自分達で牛を捌いて持って来てくれたらしい。


「っていうか先生!? 何がどうして宇宙人と知り合いなんですか!?」

「言ってなかったか?」

「聞いてません!」


 その問いに先生は顎に手を当て、彼らとの出会いを語ってくれた。


「そう……、あれは私がまだ若かりし頃――」


 先生がアメリカへ調査に赴いていた時の事。突然目の前に小型のUFOが墜落して来たそうだ。

 その時にUFOに乗っていたのがこの両名であり、先生は自分の危険も顧みずにUFOから救出したらしい。

 幾たびか地球を訪れて各国の政府と密約を交わしていた宇宙人さん達だったが、UFOが墜落した原因が当時建設中だった国際宇宙ステーションに激突しそうになったためであり、その情報を貰っていなかった彼らは責任者へと抗議をしに行くことに。

 それに先生も同行し、その場を収めるのに一役買ったとか。


「いやもう、うまく説得できなかったら宇宙人さん達が大挙して抗議活動していたかもしれないねえ。はっはっはっ」

「もしかして……、メリーさんの時、宇宙開発関連のお偉いさんに貸しがあるって……」

「ああ。さっきの事だね」


 開いた口が塞がらないとはこの事か。俺はただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


「と……、まあ、この辺で昔話は終わりにして、本題に入ろうか」


 先生はその一言と共に、チューさんの方を向き直り、何やら宇宙語で話し始めた。


「せ、先生? 何をする気ですか?」

「えっ? 彼らの住民票を貰おうと思ってね。快く承諾してくれたよ」

「何で住民票!?」


 俺の戸惑いながらの質問に先生はあっさりと答えた。


「前回のTV出演の際に『宇宙人の住民票持って来い!』……と高槻教授に言われてね。こうして、ちゃーんと調達して目に物見せてやろうかと」


 なにその意味不明なやり取り。


「だったら……、この方々を紹介した方が早いんじゃ……」

「うーん……。そうしたいのは山々だが、彼らはまだ一般人に公開してはいけない決まりになっていてね」


 ……それじゃあ住民票も駄目じゃないのか?


「そこはホラ、よく分からない異質な文字とか紹介するだけでも説得力があるだろう?」


 そこまででチューさんが先生に指示を出している様に見えた。


「おお? ああなるほど、スマホにデータを送るから確認してくれ……と。じゃあ、お願いするよ」


 先生はスマホを取り出すと、そのスマホの画面に今まで見た事の無い文字の羅列大量に凄まじいスピードで映し出されていく。


「こ……これは……圧巻ですね……」


 先生も目的を果たしてご満悦のようだが、そのスマホの様子がおかしい。


「……先生? スマホから煙、出てません?」

「うむ。尋常じゃない程の熱を発しているね。というか、熱い!!」


 根木野先生はスマホを全力で放り投げていたのだ。

 するとスマホが落ちた辺りから、バーーーンと、どう考えても爆発音としか思えない音が鳴り響いた。


「「……」」


 俺と先生は無言だった。だが、このままでは話が進まないと勇気を振り絞り先生へと話しかける。


「あの~……、今のってまさか……」

「おそらく……、宇宙規模の住所やら個人情報や宇宙技術な通信でスマホが限界になってしまったらしい」


 はい、とても残念な事に先生のスマホと共に『宇宙人の住民票』データは無に帰してしまった。先生は項垂れてたが、すぐに宇宙人さん達へと向き直る。


「お二人共、今日は残念な結果になってしまったが、来てくれてありがとう。また機会があったらよろしく頼むよ」

「=*+○※△#!」


 ウッくんとチューさんは先生の方をポンポンと叩き、慰めてくれている様に見える。

 彼らは先生と数分会話した後で、UFOへと戻り帰って行った。


「先生……、TV出演する時……どうする気ですか?」

「まあ仕方ない。どうにか誤魔化すさ……」






 そして、番組出演当日。

 先生と高槻教授は互いに向き合い、『宇宙人の住民票』について議論を交わしていた。


「あなた前にあるって言いましたよね? じゃあちゃんと見せて下さい!」


 高槻教授に促されると先生はスーツの内ポケットから一枚の紙を取り出す。だが先生は中身を見せようとはしない。だが意を決して口を開く。


「これは……私の住民票だ!」


 その答えに会場の観客からは爆笑が沸き起こる。今回もどう考えたって先生のは敗北だ。

 だが、真実は俺と先生の胸の内にのみ秘められている。

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世界は不思議で満ちている!? 柴田柴犬 @spotted_seal

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