第15話 彼らの所在はどこにある!?(前編)

 俺と先生が事務所にて書類をまとめている最中、電話のコールが鳴り響いた。

 先生は受話器を取り、電話越しに相手へと向かって喋り始める。


「もしもし……? 根木野超常現象研究事務所ですが……」


 本当にいつ聞いてもおかしな事務所名だ。というかこの事務所の収入源は本当に超常現象の調査のみで賄われているのか不思議に思う事もある。


「はい。……そうですか。日程は?」


 根木野先生への調査依頼だろうか?

 そんな想像が一瞬頭を過る。


「それで……、彼も参加するのかな? そろそろ決着を付けたいのだが?」


 何か先生が物騒な事を言い出したぞう?

 決着とは何ぞや……と考えてしまった。先生の事だから、幽霊をしばくとか妖怪を滅するとか言い出しそうだ。


「分かった……。それではまた後で」


 そう言って先生は受話器を置いた。

 そして、こちらに向かって振り返ると何とも言えない表情を浮かべて、こう言ったのだ。


「ふっふっふっ……! はーはっはっはっ! 次こそは雌雄を決してくれるぞ! 高槻たかつき智秋ともあきッ!!!」


 高笑いしながら先生が壊れた!?

 この先生は確かにおかしい。口裂け女の包丁を日本の指で白刃取りしたり、花子さん泣かせたり、吸血鬼を脅したりする。しかしこんな狂ったように笑うのは初めて見た。正直この場からすぐに立ち去りたい。怖すぎる。

 その時、事務所のドアが開き、美桜みおちゃんが顔を見せた。


「どうしたの? 笑い声が外まで聞こえてたけど……」


 学校帰りの美桜ちゃんは心配そうな顔をしていたが、今の俺はそれどころではない。早くここから逃げ出したかった。


「あっ! 美桜ちゃん!」


 先生は俺には目もくれず、美桜ちゃんの方へ向かっていった。


「実は……先生が電話に出てから変になって……!? っていうか高槻さんって誰?」

「あー。そっか……。そういう事かぁ……。うん。お父さん、ちょっと落ち着いて! 須永さんが困ってるから」


 先生の袖を引っ張りながら冷静になるよう促してくれている。それにハッとした表情を見せていた。


「コホン。ああ、済まなかったね。驚かせてしまったようだ」

「それで……さっきの電話は……? 何か良くない事ですか?」


 恐る恐る質問してみた。先程の狂気に満ちた笑みを見てしまうと嫌な予感しかしない。


「ああ、さっきのはテレビ番組出演の依頼だよ」

「へぇ……。テレビですか……。……テレビ出演!? 何で!? こんな存在自体が怪奇現象みたいな先生がどうしてですか!? まさか妖怪vs先生のデスマッチでもする気ですか!?」


 思わず叫んでしまった。一体どんな番組なのだろう!?


「……須永君は中々面白い冗談を言うねえ。そんな殺伐としたものではないよ」


 え? 違うの?


「出演するのは『超常現象大討論バトル! 肯定派vs否定派 生き残るのはDOTCHだ!?』という番組だが?」

「あのう……。番組名で何となく分かりますが、どういった事をするんですか?」

「簡単に言えば、様々な超常現象を取り上げて、それを専門家達が議論するというものだね。そして……」


 先生が続きを言う前に美桜ちゃんから説明が入った。


「その番組……何回か出てはいるけど……、高槻さん、否定派の急先鋒なの。かなり有名な大学の教授で毎度毎度論破されちゃって、毎回負けてるの。それで今度こそはって、張り切ってるみたい」


 待て、それはおかしい。


「でも……、普通にいるじゃないですか。妖怪とか幽霊とか人面犬とか」

「まあ、普通の人には見えなかったりするしねえ……。基本的に大勢の前には出たがらないのだよ。彼らは」


 確かにここ最近、超常現象が身近になりすぎたせいで感覚が麻痺していたかもしれない。普通に生活していたら妖怪なんて目にする事は無いのだ。


「それ……、先生が物凄く不利じゃないですか!?」


 今更ながらに気付いてしまった。


「ああ……。だが今回は別だ。前回の討論会でのヤツからのリクエストを調達できれば勝機はある!」


 基本的に紳士的な先生が『ヤツ』なんて呼ぶ高槻教授ってどんな人なのだろう?


「UFOはプラズマだの、幽霊の正体見たり枯れ尾花とか、人魚のミイラは作りものだの、超古代文明? 何それ? などと言いたい放題言ってくれているが、今度こそ認めさせてやる!」


 うわ……。先生の目がイッちゃってる。今まで負けたのが相当悔しかったみたいだ……。


「それで……今回はどうするんですか? 何か準備する必要がありそうですが……」


 俺の質問に先生は不敵な笑みを浮かべていた。


「ふっ……。問題ない。今から連絡を取ってみるさ……。『彼ら』にね」


 自信満々の先生がどこかに電話をかけ始めた。どうやら英語で話しているので国際電話のようだ。

 英語がほとんど分からない俺はその電話が終わるまで待つしかなかったのだが、数分後、先生は受話器を置いてこちらに向かって来た。


「須永君、先方はこれから会っても良いと言っているらしい。すぐに行くぞ!!」

「えっ!? ええっ!? 誰に会いに行く気ですか!? って言うか英語で話してましたけど、外国行く気じゃないですよね!?」

「いや、日本に来てくれるらしい。さあ! 早く支度したまえ! 時間が無いぞ!!」


 そう言って先生は俺を引っ張り事務所から連れ出した。

 美桜ちゃんはそんな俺らを見送りつつ意味深な言葉を発していた。


「……大丈夫だと思うけど……、あまり驚かないでね?」


 俺に目を合わせていたので、おそらく俺に向かっての発言だろうがあまりにも不穏だ。

 そんな不安を抱きながら先生が運転する車へと乗り込んでいた。

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