手紙

芋娘眠子

鈴木 浩平様

お元気ですか。この10年、何してましたか。

15歳だった私はあなたにさえ反抗していました。

 

 今は都内で雑貨屋をしています。毎日笑顔で接客しています。あの頃の私は今の私を想像できなかったと思います。意地悪でわがままで不愛想な子供でした。いつも笑っているあなたは周りの人から愛されていました。嫉妬していたのだと思います。肥満の、障がい者の、あなたが好かれていることが。私も褒められたかった、すごいねって言われたかった。だから勉強も運動も頑張りました。みんなに好かれたくてたくさん我慢しました。でも、報われなくて家族の前ではいつもわがままでした。あなたが死んでから、私は優しくなりました。

 弟のあなたが死んでから、家族はばらばらになりました。父は仕事を辞めました。母は不倫をするようになりました。姉は家を出ていきました。残された15歳の私は一人で生きていきたいと思っていました。高校、大学の記憶はあまりありません。今を一生懸命生きています。あなたの死の悲しみを噛みしめながら、あなたの分まで、生きていきたいと思っています。


 13年と10か月生きたあなたは、幸せでしたか。肥満のせいでみんなと同じものを食べさせてもらえなかったあなたは、幸せでしたか。障がい者と私にばかにされていたあなたは、幸せでしたか。


今あなたが生きているならば、謝りたいです。意地悪ばかりしてごめんなさい。人生を壊してごめんなさい。勉強ができないのをあなたのせいにしてごめんなさい。死ねばいいのにって包丁向けてごめんなさい。あの時のあなたの、やめてと泣く顔は、一生忘れられません、ごめんなさい。かわいそうなことをしました。私のせいであなたは死んでしまったと思っています。私が死ねって言ったから、死んでもいいって思ったの?

 

今あなたが生きているならば、おいしいご飯を届けに会いに行きたいです。きれいなお花を買ってあげたいです。かっこいい服も、きれいなクレヨンも色鉛筆も自転車も買ってあげます。彼女ができるように、一緒に痩せる方法を考えます。プロポーズの言葉も一緒に考えます。


なぜあの時、これをしなかったのか。10年前の私に教えてあげたいです。


あなたが死ぬとわかっていたならば、あんな態度はとらなかった。もっと優しくしてあげられた。もっと大切にしてあげられたのに。


10年でたくさんおいしいものを食べました。たくさん旅行もしいろんなところに行きました。お酒を飲んだり、夜に出歩いたり、楽しいことがたくさんありました。そしてこれからも、たくさん楽しみます。私には時間があります。


ごめんね、過去にしか生きられないあなたと未来に生きる私では生きていく時間が違いすぎます。


今は楽しい夢を見ていますか。おいしいご飯を食べたり、女の子と遊んだりしていますか。13年しか生かしてあげられなくてごめんなさい。


あなたのおかげで、人の時間を大切にしたいと思うようになりました。

人の人生を壊してはいけないと改めて感じました。


あの人の死はプラスだったってよくいうけど、そんなことはどうでもいいです。

あなたの存在は私にとって大きいものです。


13年しか共有できなかった。これから年を重ねて、あなたと過ごした時間は私の人生の中でもっと短くなっていく。でも絶対に忘れないよ。私はこれからも成長していくよ、浩平は夢の中で、楽しいことだけをしてください。いつもありがとう


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