会場散策 (25:四谷軒さん)

ここはクリエイティブな物書きと、それをこよなく愛する読者さんが住んでいる国『カクヨーム王国』である。


さてさて、本日は日曜日。いつもの和響わおんとやらは、昼から昼寝を二時間もしてしまったようだ。現実ワールドでは五人の母親だというのに、大丈夫なのだろうか、その後の家事を横に置き、カクヨーム王国へとやってきた。


「夕飯の準備まではできたけど、まだ洗濯物が干してないな。でも、まぁいいや、それはすぐ乾くでしょ。結構今日あったかいもんね! では、早速、 自主企画【戦争のない平和な世界になりますようにと、優しい「祈り」を込めて書いた作品募集します!https://kakuyomu.jp/user_events/16816927861270086890】へと向かいますか!」


いつもながら便利な妄想世界。指を少し動かせば、脳内の映像は切り替わり、あっという間にイベント会場の入り口である。


――おお、また少し増えたみたいだ! 新作通知ってボタンまでできた!


新作通知としてみたい場合は、参加順で見ればいいと思うのだが、そこは妄想世界、ツッコミは最小限にしておこう。和響は、「平和と祈りの祭典」と書いてある虹色の看板の下をくぐり、今日の本屋さんを探しているようだ。


「えっと、こないだ来たときは、エントリーナンバー24番の本屋さんだったから、今日は25番だね。いでよマップ!」


そう声を出すと、目の前にホログラムの会場マップが現れた。真ん中には大きな池があり、そこでは楽しそうに泳いでいるような人もいる。だんだん暖かくなってきたから、美しい湖を見ていたら泳ぎたくなった勇者や魔王たちのようだ。そこへ侍らしき人も混じりふんどし一丁で泳いでいる。湖の近くには、イタリアンバルのような店も出ている、なんとも平和な会場マップ。


「えー、いいなぁ。湖ができてる。みんな泳いでるし、私も後からいこっかな、あ、でも、水着がないやザンネーン!」


などと言っているが、半袖のTシャツから見えるブヨブヨした二の腕で、異世界美女たちの中へ行くのはいかがなものかと思うので、やめておいた方がいいだろう。


――さてさて、えっと、25番はこれだね、ポチッとな!


会場マップから指でタッチした場所が、拡大してポップアップしてきた。どうやら本屋さんの持ち主のカクヨムさんの名前と、そのお店の写真が映っている。


「わぁ! 四谷軒さんだ! めっちゃ嬉しい! いっつもお馬鹿な妄想日記読んでくれていて、お礼を言いたかったんだ! 早速行っちゃお! エントリーナンバー25番!四谷軒さんの、【夏が燻る ~ 源宛(みなもとのあつる)と平良文(たいらのよしふみ)と合戰(あひたたか)ふ語 ―「今昔物語集巻二十五第三」より― ~  作者:四谷軒 https://kakuyomu.jp/works/16816700426211327909 】へレッツゴー!」



和響がそう口に出すと、ぶわっと小さな旋風が和響を包み、あっという間に四谷軒さんの本屋さんがある場所へついた。どうやらここは、平安時代、武蔵野の荒川のほとりのようだ。


「わっ! いつもとは違うワープの仕方だな!そしてついたここは一体どこ!?」


――なんか、時代がだいぶ昔みたいだ。あ、立て看板に、〈武蔵野〉って書いてある。そうか、四谷軒さんは、私が感動しすぎて涙出まくりだった、【きょうを読む人 作者:四谷軒 https://kakuyomu.jp/works/16816700428558630563】を書いたカクヨムさんだもんね、ということは、ここは、伝記・歴史シティだな。


そんなことを考えながら、少し歩いた先にある、大きなお屋敷のような本屋さんの門へと和響は向かって行った。


門に入ったところで何かが目に入ったのか、ふと足を止めている。


――あ、綺麗な夕顔。きっとこのお屋敷の方が育ててるんだね。愛情もらってないと、こんなに綺麗には咲かないだろうなぁ。心の綺麗なカクヨムさんなんだろうなぁ、四谷軒さん。


「四谷軒さん、お邪魔しまぁす。妄想アトラクションさせてくださぁい」


そう言って、叩き土間で靴を脱いできちんと揃え、屋敷の中へと入って行った。


――あ、これだな。この書院机に置いてある巻物だ。では、早速、心を沈めて妄想アトラクションに入らせていただきます。


と思いながら、正座をして、居住まいを正し、


【夏が燻る ~ 源宛(みなもとのあつる)と平良文(たいらのよしふみ)と合戰(あひたたか)ふ語 ―「今昔物語集巻二十五第三」より― ~  作者:四谷軒 https://kakuyomu.jp/works/16816700426211327909


という題目の巻物に一礼し、巻物の中へあっという間に吸い込まれて行った。そして、しばらく、


「あぁ、え?…その考え方が素敵。ですよね、そうですよね、無駄な争いはですよね。えええ?!最後が……! あぁ、そうなんですね、どうしよう、また大泣きですぅ。もうたまらないですぅ」


と声を出しながら楽しみ、しゅうっと白い煙になって元いた場所に戻ってきた。そして綺麗に巻物を巻きなおし、紫色の組紐できちんと結んでから、元あった場所に巻物を戻した。


――四谷軒さんの歴史の人物への愛情がものすごく感じられて、まさにこのお話は、今、世界中で争っている人たちに読んでもらって見習って欲しいよ。さすが四谷軒さんだ……。お手紙を書いて、巻物の隣に置いておくか。


と、すぐそばにあった紙に、そこにすでに用意されていた筆でお手紙という名のコメントをしたため、先程の巻物の下にそっと挟んで、四谷軒さんの本屋さんを後にした。


「はぁ。今日も泣いてしまった。歴史小説はそんなに得意じゃないんだけど、なんだろう、四谷軒さんのはスッと心に染みてくるんだよね」



和響がそう思いながらふと顔を上げると、一匹の美しい茶色の馬が、土埃を上げながら、その目の前を通り過ぎて行った。その上には肩から斜めに筒を結えたお侍さんが乗っている。きっと、誰かに大切な手紙でも届けに行くのだろう。



この四谷軒さんのお話のように、戦争ではなく、別の平和的方法で物事を解決できる世界に早くなってもらいたいものだ。戦争は、関係のない人々までたくさん死んでしまう。もう、そんな未来はいらないと、きっと世界中の多くの人たちが思っていることだろう。



だから、今日も祈るのだ。

早く戦争が終わってくださいと。

そして、亡くなられた方々の魂が、どうか安らかに眠ってくださいと、祈るのだ。





――黙祷。



世界中が優しい光に包まれて、戦争のない未来がすぐにきますように。






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