君の居場所

曙 春呑

君の居場所は

学校なんかクソだ。

勉強ができなきゃ見下されて意味ない授業を聞かされる。

友達なんかもいるわけないし好きな人ができようがはなせるわけもねえから無縁だ。

お陰様で今日も午前はイヤホンでレゲエを聴きっぱなしだった。


チャイムが鳴って午前が終わる。

今日もまた屋上で飯食うか。

屋上は普段空いてないが俺が鍵をぶっ壊した。今じゃ誰でも出入りできるがそれを知ってんのは俺だけだ。

ラガな生き方を貫いて自分らしさを殺さずやってきた。その結果がこれじゃ自主性もクソもない。


屋上の扉を開ける。階段との明暗の違いで一瞬真っ白になる。

シズラでも流しながら飯食うか。これがまたたまらねえんだ。なんてことを考えていた。

見えるようになってからか、そいつがそこにいるのに気づいたのは。


「あー、よお。そんなとこで何してんだ。」


そこにいたのはクラスメイトのミキだった。

俺が密かに好意を寄せていたミキはまさしく今、屋上の柵を乗り越えようとしていた。

「あ、カツキくん…」

普段の優しそうな声や表情と全然違う。そんなミキを目の当たりにして、体はなかなか動かない。

「あー…飯食おうと思ってよ。ほら、教室よりこっちの方が程よいからな。お前もなんか食って、その、少しリラックスしようや。」

こんな状況じゃ気の利いたことを言うことすら難しい。

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

そう言うとすんなりと柵から降り、その場にちょこんと座った。

俺もその場に近づき、座る。

「お前飯あんのか?」

「いや、教室。」

少し気まずい空気の中じゃこれが精一杯だった。

「俺のパンやるよ。」

「ありがとう。」

そういいメロンパンを渡すと黙って食べ始めた。俺もまたこれ以上に口を開けなかった。

好きなやつと話すのでも精一杯なのにこいつが死のうとしてやがった。何を話せばいいんだ。

「あー、そこで何してたんだ?」

「死のうとしてた。」

「なんでさ。」

そう言うとミキはこっちを見つめた。

「初めて話すのにそんなことまで聞けちゃうの。」

そういいクスッと笑った。

晴天の空を見つめミキは話した。

「飽きた。」

「飽きた?」

「毎日くだらない繰り返し。実力主義の学校。友達ごっこにいい子を演じることにだって。」

話しているミキの目は真っ直ぐ、決意に満ちたようだった。

「時々思うんだ。本当の私の居場所ってないのかなって。私って居る意味があるのかなって。」

衝撃だった。あのミキから、普段明るくておしゃべりなミキからそんな言葉が出るなんて。

「お前の居場所、あると思うけどな。」

「それならどこに?端っこに追いやられればそこが居場所って?」

笑いながら冗談を言うようにそう言ってくる。でもその言葉は冗談には聞こえなかった。

「地球って丸いじゃねえか。どこから見ても端っこなんてねえ。どこから見てもそこは中心だ。お前の居場所は、この世界の真ん中にある。」

かっこいい言葉なんて思い浮かばなかった。ただ、好きなやつに死なれたくない。俺には止める力はきっとねえけど、レゲエで培った言葉なら出せる。

「言葉の言い回し上手だね。でもそんな抽象的じゃ、今更…」

やっぱりダメらしい。俺じゃどうしようもないのか。

それでも俺の口は考えるより先に動いていた。

「ならよ。」


ミキのほうを見る。


「俺がお前の居場所になる。」


絶望的に臭いセリフ。吐いた後に気づいた。

ミキもポカンとしている。


「俺がお前の居場所になってやる。嫌かもしれねえけど、最後の綱だと思って俺についてこい。」


数伯置いて、ミキが笑い始めた。大笑いだ。涙もぼろぼろ溢れている。

俺にはその涙は笑い以外に苦しみや悲しみに見えた。


一通り笑った後涙を拭いてミキは言った。

「それって告白?死のうとしてる人に?」

「ああ。」

「初めて話す人に?」

「そうだ。」

「性格も真反対な私に対して?」

「そうだって言ってんだろ。」

満足したのか息を大きく吸い、ミキは口を開いた。

「私もあなたのこと気になってたんだ。生き方も中途半端で、でも自分らしさを貫いてるあなたが好きだった。自分を隠してる私にとって憧れだったんだ。」

そう言われ、俺はなんだか今までの苦難やらが報われた気がした。肩のでけえおもりが外れた気がした。


認めてもらえた。


「いいわ。あなたが私の最後の命綱。私を殺さないでね。」

顔は笑っている。しかし俺を見るその目にはしっかりとした真剣さがあった。


「当たり前だ。お前の居場所はちゃんとある。」


一息吸う。

そしてミキの手を握る。


「お前がどんなに辛くても。人生の最後まで俺がお前の居場所になってやる。」

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