10 【 】
気が付くと、一年半がたっていた。そしてついに、昨日で使える辞書のページがなくなってしまった。
俺は、覚悟を決めなければならなかった。明日からは、自分で食材を調達しなければならない。幸いにも辞書のおかげで食器や調理器具、少量の板や砂などは入手できたので、完全なる絶望というわけでもない。
ただ、けじめはつけなければならないと思った。
船盛りの船の上に辞書を置いて、僕はとってきた魚と塩を備えた。せめてもの感謝の気持ちである。そして夜になり、僕は金庫を持ってきた。使い込んでボコボコだが、まだかろうじて蓋は閉まる。
僕はその中に辞書を入れて、鍵を閉めた。
船の上に、金庫を乗せる。それを岸まで運んでいく。
俺は、小舟を海に浮かべた。波にさらわれて、船は沖へと流されていく。
これでいいのだ。もし俺のような誰かがひろうことができれば、無人島で生き抜く足しになる。俺の前の持ち主も、そう考えたのではないだろうか。
小舟が見えなくなった。今日からは、自力で食料を調達するしかない。
寂しいけれども、ほっとした気持ちもあった。無人島に漂着して人間というものの運命を、ようやく受け入れられるというものだ。
強がりを思いながら、俺はねぐらに戻った。もはや小舟のなくなった場所に。
朝、目が覚めると空腹だった。幸いにも米など、いくらか備蓄している食料はある。ただ、今日からは自分で調理しないと何も食べることはできない。
カレー食いてえなあ、と思った。今度は船が流れてこねえかなあ。
そんなことを思いながら、起き上がる。
辞書のない生活はきつく、つまらない。それでも生き抜いてやるぞ、と決意する。
おなかが鳴った。誰が聞いているわけでもないのに、恥ずかしいものだ。
辞書のある暮らしの食生活(無人島編) 清水らくは @shimizurakuha
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