【KAC20222】これがわたしの推し活です

竹神チエ

物語の難しさよ。

 T子さんは画面を見て、一瞬、フリーズしたそうです。


 つぎはどんなお題だろうって確認したんですよ。


 そう語るT子さんは暗い表情をしています。


 お題は、「推し活」でした。


 もちろんT子さんも現代を生きています。推し活の言葉くらい知っていました。


 でも。とT子さんは打ち明けます。


「おしかつ」とキーを打って、

「推し活」と出るようになったのは、つい今しがたです、と。


 最初、「お死活」と出たそうです。

 T子さんは心もからだも健康です。


 その次は「押しかつ」と出ました。

 誰に押しかつのでしょう。

 この「かつ」は「勝つ」に変換できそうです。関取でしょうか。


 さて。

 そんなT子さんも前回のなげやり投稿を悔いていました。


 だからものがたりを考えたんです。そう語ります。


 でも。


 まったく浮かびませんでした。

 笑うT子さんの目の奥は暗いままです。


 推し活をするキャラを作ることはできそうです。


 けれど、


 その子が何をして、何をどうなって、どうなるのか。

 考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になるんだそうです。


 推し活って、とんかつの一種みたいですよね。


 T子さんはいよいよ発言がおかしくなっています。

 まだ470字なのに、そろそろ終わるつもりでしょうか。

 ですから、わたしはいいました。


 T子さんも、毎日推し活をしているじゃありませんか、と。


 不思議そうにするので、わたしは諭すように語ります。


 好きな作者の作品を読み、♡を押し、コメントを書く。

 新作が公開してあると、どんな作品なのか確認、フォローする。


 あるときは、レビューを書き、これで大丈夫だろうかと緊張する。

 新作公開まで日が開くと、どうしたのかと気になり、動向を探ろうとする。

 どストライクな連載が始まると、ニヨニヨが止まらない。画面の前で合掌して礼を尽くす。


 推し活ですよ。


 T子さんは激しくうなずきました。


 そうですね。

 それがわたしの推し活ですね。

 

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