【KAC2022】推し将棋
ポテろんぐ
第1話 推し将棋頂上決戦
『人生シュミレーター』は、ある人物のデータを入力し、「その人物がどういう行動を取ると人生はどうなるか?」をシミュレーションする機械。
このシミュレーターが生んだ、新しいスポーツそれが『推し将棋』である。
推し将棋とは、人気アイドルなら必ずいる自分を推してくれるファンを将棋の駒として使い、盤上で戦わせるボードゲームだ。
駒の強さは「ファンがどれだけ握手券を買ってくれるか?」で競い、CD一枚を千円として、百万円分買ってくれるファンなら、攻撃力『1000握手券』となるわけだ。
そして、ファン人間のデータを人生シミュレーターに入れる事で、「さらに握手券を搾り取れる人生の行動」を指示し、ファンをパワーアップさせる事ができるのだ。
今日は年に一度の推し将棋の決勝戦の日。
会場の東京ドームは超満員。今年のナンバーワンアイドルが決まる大会である。日本中が注目するこの推し将棋のカード。
阿弥陀如来サトコ 対 不動明王アカリの一戦が繰り広げられる。
まず先手は今や押しも押されぬ人気グループに成長した『鈴木46』の絶対的センター、阿弥陀如来サトコである。
「私はまず山田孝雄さんで攻撃を仕掛けます」
阿弥陀如来サトコは山田さんの駒で不動明王アカリの駒を攻め立てる。
山田孝雄さんは東大卒の弁護士で年収二千万円。いつも多くの握手券を買ってくれるサトコを支えるファンの一人だ。
いつも最低でも五十万円分は握手券を買ってくれる。つまり「攻撃力500握手券」である。
これで終わらないサトコ。山田さんを人生シミュレーターにかけ『二ヶ月前から握手会当日まで水しか飲まない。何も買わない』の行動を発動する。
これにより、山田さんの普段の食費が握手券に変わり、攻撃力はさらに「1000握手券」にまで跳ね上がった。
これを見て会場が「うおおおお!」と湧く。
普通のファンなら10握手券でも限界なのに、いきなり攻撃力1000握手券の怪物である。
だが、問題はここからだ。
握手券当日までの二ヶ月を山田さんは水飲みで凌ぐのだ。下手をしたら握手会より前に死んでしまうかもしれない。
もし、人生シミュレーター内のファンが死んでしまった場合は、その攻撃は無効となるルールがある。
一ヶ月が過ぎた辺りで、さすがの山田さんも意識が朦朧とし、生死の境を彷徨い出している。
しかし、病院には行けない。握手券を買うお金を治療費に回すなど、もってのほかだからだ。
「頑張って山田さん。後一ヶ月、我慢したらサトコに会えるんだよ!」
推しの阿弥陀如来サトコのエールが耳に届いた人生シミュレーター内の山田さんはみるみると息を吹き返し出す。
なんと、握手会当日まであと三日の所まで、水だけで凌ぐ事に成功した。
これを見るやサトコ。すかさず、さらに山田さんに命令を下す。
今住んでいるマンションを売り払い、自宅の私物も全て売り払う。これで山田さんの攻撃力は一気に16000握手券にまで跳ね上がった。土地バブルに乗じて売ったマンションが効いた。
握手会当日まで住む家が亡くなった山田さんは野宿で寒さを凌ぎ、なんとか握手会当日まで乗り切る事に成功。
阿弥陀如来サトコは攻撃力16000握手券の化け物を作り上げる事に成功した。
対して、不動明王アカリ。
獣坂46の不動中の不動のセンター。前回王者、現役最強アイドルである。
「私の駒は田中五郎さん、四十六歳ニート!」
アカリの駒に会場がどよめく。
相手は東大卒の弁護士。家も家財も全て売っぱらった攻撃力16000のバケモノにニートが勝てるはずがないのだ。
何を考えている不動明王アカリ!
「勝負を捨てたのかしら、アカリ!」
「甘く見ないでほしいわサトコ。この田中五郎さんは確かにニートで何もできない無能のボンクラですが、彼のご両親は日本を代表する企業の社長ですわ!」
「何っ!」
アカリはすかさず田中五郎にまず、「両親を事故に見せかけて殺せ」と命令を下す。これによって、田中家の財産は全て一人息子の五郎の元に転がり込む。
この冷徹極まりない所業に「鬼ぃ!」「悪魔!」と会場からどよめきが起こった。たった握手券を買わす為に、両親を殺させるとか。
さらにアカリも田中に『全財産を売り払え!』と命令。
都心の自宅、別荘、両親のコレクションの類、さらには株券、債券、投資信託……大企業の社長が持っていた全ての財産を売り払い、それを全額握手券に変える。
その攻撃力、何と160000握手券。日本円にして16億円。
「さらに会社の株も会社ごと売却!」
田中が社長の跡を継いだ『時価総額8000億円』の会社を丸ごと海外の知らん人に売り払った。
握手券を買う為に日本有数の企業が一瞬で海外に売られたので、社員一同、関連企業の人々、数十万人が路頭に迷う事となった。
しかしこれで攻撃力は一気に8億握手券に!
家も売っぱらったため、田中もまたホームレス生活へ。
しかし、ここで問題が起きた。
田中の殺人の詰めが甘く。警察が田中を疑い始めたのだ。
「弁護士を雇え!」
客席のアカリ推しから助言が飛ぶが、アカリはこれを無視する。そんな事に大事な握手券の金を使われてたまるか。
アカリが田中に命令したことは至極シンプル「握手券当日まで逃げのびろ」
ホームレス生活とストレスで弱った田中は、アカリに握手会で会う為に弱った体で這いつくばりながら逃げる。
会場から「鬼ぃ!」とまた罵声が飛ぶ。8000億円もあるのに一円たりともファンには恵まない悪魔の所業のアカリ。
「頑張って、あと三日我慢したらアカリに会えるんだよ!」
そしてアカリもまた、田中に一円にもならないエールを送る。そのエールを励みに田中は見事、握手会当日まで逃げ延びる事に成功!
アカリの攻撃力800000000の怪物がサトコの持ち駒の山田さんを撃破!
つ、つええええええ!
アカリが勝ち誇った表情でサトコを見下ろす。さすが絶対王者。自分の握手会のために一つの企業をあっさりと潰した。
「その程度で勝った気にならないで欲しいわね」
阿弥陀如来サトコは自分の駒をアカリにぶつける。攻撃力八億の化け物に勝つ駒などあるのか?
「私の駒はキムさん。中国の政治家よ。そして、人生シミュレーターでキムさんにクーデターを起こさせるわ!」
サトコの命令通り、キムさんは中国の現政権に反旗を翻し、見事に政権奪取に成功する!
「さらに、ここで『独裁政治』を発動よ!」
キム国家主席は、中国全土での独裁政治を始め、中国の国家予算の全額をサトコの握手券を買う事に使う法案を成立させる。
この額が百兆円。
さらにサトコの独裁は止まらない。一つの会社どころか、中国企業全部と中国人が持つ資産、財産を全てを海外に売っ払うという暴挙に出る。
この額がなんと56京円!
攻撃力は一気に56兆握手券にまでパワーアップ!
もちろん田中さんなんて相手にもならず、さらにアカリの駒を次々と撃破。
アカリの駒はあと一人になってしまった。さすがの王者アカリも中国の全財産を目の前に勝てる見込みはない。
勝負あったか? と誰もが思った。
「これで終わりにさせて貰いますわ、アカリさん。今年のナンバーワンアイドルは私ですわ」
アカリの最後の駒が前進! キム国家主席に迫る。
「無駄よ! 56京円の化け物に叶うはずがないでしょ!」
「果たしてそうかしら! 私の最後の切り札はこれよ!」
アカリが金国家主席に戦いを挑む。その駒は。
「ジーザスキリスト!」
アカリの駒、それはあの名高き神様、イエスキリスト。
「馬鹿な。なぜ、キリストがアナタを推しているの?」
「とあるルートから、イエスキリストのDNAを手に入れたのよ。それで、その生まれたクローンが私のライブを見て、推しになってくれたんですわ」
「なんですって!」
そして、アカリは人生シミュレートで二千年前のイエスキリストに指示を出す。そして、キリストはアカリの命令通りに、アカリの教えを世に伝えていく。
『汝、アカリの握手券、買いたれ!』
キリストのこの言葉に触発された二千年前のキリスト教徒達は「二千年後の不動明王アカリの握手会までにお金を貯めるぞ!」と心に誓った。
それから二千年にも及ぶ、節約生活が幕を開けた。
アカリはキリスト教徒達に『二千年間、水しか飲むな』と人の心があるとは思えない命令を下す。
そして、キリスト教徒がコツコツと貯めたお金は子孫に受け継がれ、世界中のキリスト教徒達がアカリの握手券を買う為に節約生活を強いられる事となった。
いくらキリストの教えだからと言って、生まれてから水しか飲めないのは、人間として酷であった。
一人、また一人と倒れていくキリスト教徒。
「みんな、頑張って! たった二千年我慢すれば、アカリに会えるんだよ!」
そんな命懸けの節約生活を強いられるキリスト教徒に、この悪魔はこんな状態でもビタ一文も払わず「頑張れ」の一言で事を乗り切ろうとしていた。
時は経ち、キリストのその教えは鉄砲の伝来とともに、フランシスコザビエルによって、日本にも伝えられる。
『汝、アカリの握手券を買いたれ』
その教えは日本に受け継がれ、アカリの握手券を買う為、戦国時代、江戸時代、明治時代と海外文化の影響で日本人はアカリの握手券を買う為に節約を続けた。
二千年の時を超え、水しか飲ませて貰えなかったキリスト教徒達。
その地獄の二千年間で貯めた金はなんと『67兆那由多ドル』、日本円にして6700兆那由多円。
攻撃力は脅威の六兆那由多握手券!
二千年の歴史の中で世界中で積み上げた金額は、中国一国程度では敵うはずがなかった。
「サトコ、食らいなさい!」
不動明王アカリの攻撃でサトコの駒は全て吹っ飛ばされた。
これにより、今年のアイドルナンバーワンも『不動明王アカリ』に決まった。
そして同時に今年一番の鬼も不動明王アカリとなったのである。
【KAC2022】推し将棋 ポテろんぐ @gahatan
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