657.お昼ご飯もおいしくいただきました

 ごはんは炊き立てで、汁物は魚のつみれ汁だった。池の魚を使ったのかなと思ったが違うらしい。つみれに使うのは青魚の方がおいしいのだそうだ。


「イワシのつみれ汁です。友人が送ってくれました」


 奥さんがにこにこしながら言う。

 おかずに出されたのはレンコンの南蛮漬け、きゅうりのたたき、ピーナッツを揚げたもの、イカと野菜の和え物、ザーサイ、それから春雨サラダだった。


「統一感がなくてすみません。今餃子を焼いていますので食べながら待っていてください」

「おかまいなく」


 餃子は皮から作った焼き餃子らしい。焼くのは私でもできるように主人が作ってくれているんです、と奥さんが幸せそうに言う。ほんわかしていてかわいい奥さんだ。こういう雰囲気が山唐さんは気に入ったのだろうなと思った。


「涼しくはなってきましたけど、冷たいおかずはまだほっとしますね」


 相川さんが呟く。今年の夏も暑かったから余計だ。


「そうですね」

「焼けました!」

「おお……」


 普通の餃子よりも一回り大きい餃子が皿にいっぱい盛られて出てきた。まだジュウジュウいっていてとてもおいしそうだ。


「熱いうちに食べてください。黒酢と普通のお酢もあります。これが醤油で、このラー油は自家製です」


 奥さんがいろいろ出してきてくれた。


「ありがとうございます」


 しかしこんなに出して大丈夫なのだろうか。流さん夫妻の分はどうするのだろう。疑問が顔に出ていたのか、


「流さんたちの分は別に用意していますからどうぞお食べください」


 と言われた。俺ってそんなにわかりやすい表情をしていただろうか。

 大きめの餃子はとてもおいしかった。皮が手作りなのでもちもちしていて食べ応えがある。あちあちと思いながらはふはふ食べた。

 幸せである。

 餃子の餡はシカ肉のミンチとキャベツだったようだ。


「シカだったんですね」

「シカ肉は脂身が少ないから焼き餃子の方が向いていると主人が言ってました」

「そうかもしれませんね。水餃子で使うなら冬のシカの方がいいかもしれません」


 相川さんがうんうんと頷く。奥さんが首を傾げた。


「季節によって違うものなんですか?」

「冬は越す為に脂肪を付けるので、冬の方が脂身は多くなるんですよ」

「確かに、人も一緒ですね!」


 奥さんはそう言ってコロコロと笑った。秋は食欲の秋とも言うし、ある程度太らないと寒くてしかたないというのもあるかもしれない。

 俺たちが食べ終えたところで山唐さんは全ての魚の処理を終えたようだった。お疲れ様である。

 山唐さんが手を洗っていると、表に出ていたユマがコンコンと嘴でレストランの扉を叩いた。

 立ち上がって急いで扉を開ける。


「ユマ、どうしたんだ?」

「カエッテー、キター」

「あ、そうか。ユマ、ありがとな。山唐さん、みんな戻ってきたみたいです」

「ありがとうございます」


 ユマの羽を撫でて、みんなで表へ出た。


「うわあ……」


 一頭だけでないことは想定内だったが、まさか大きなシカを三頭も狩ってくるとは思わなかった。

 一頭は韋駄天君に括りつけられている。もう一頭は疾風君に、そして三頭目は流夫妻が担いできた。


「随分でかいな。そんなのがまだいたのか」


 山唐さんがうんざりしたように言った。


「思ったよりでかかったです。解体をお願いします」

「わかった」


 山唐さんはまだ食事もしていないだろうに、本当にお疲れ様である。


「利山さんたちはシャワーを浴びてください。そうしたらお昼を用意しますから」


 奥さんが伝える。レストランの裏にビニールシートがいつのまにか敷かれており、そこにシカを下ろした。ポチ、タマ、メイはふんすという顔をしていた。メイもかよ。

 トラ君はシカの周りをうろうろしていたが疾風君に上に乗っかられ、「に゛ゃあ~~~!」と情けない声を出していた。


「外の水道でいいのですが、韋駄天と疾風も軽く洗っていいですか?」


 利山さんが考えるような顔をして言うと、韋駄天君がじりじりと後ずさり始めた。


「ほう? この私から逃げられるとお思いで?」


 利山さんの目が一瞬人ではないものに変わったように見えた。


「えっ?」


 ギャインッ!

 利山さんはあっという間に韋駄天君に飛び掛かると、その身体を仰向けに倒してしまった。


「えええええ?」


 韋駄天君、でっかい犬どころの大きさじゃないんだよな。虎に見えるトラ君よりも一回りは大きいので、犬というより立派なオオカミにしか見えない。それを一瞬で倒すとか、利山さんっていったい何者なんだろう。

 俺は横にいるユマを見て、相川さんを見た。相川さんの側にはいつのまにかテンさんとリンさんがいる。相川さんは苦笑して首を振った。

 うん、まぁこんなこと誰も想定していないと思う。ポチとタマは利山さんが韋駄天君を倒したのを見ても平然としていた。最初からそういうものだと思っているみたいだった。メイだけはさすがに動揺しているみたいだった。羽をバサバサさせてポチとタマの後ろに隠れるように移動する。メイはかわいいな。

 ポチとタマが俺の側に寄り、リンさんテンさんの方を向く。俺を守るという行動も変わらない。メイは今度はササッとユマの後ろへ控えた。こういう時の対応も決めているみたいだった。

 ギャンッ、ギャイーンッ!


「往生際が悪いですよ」


 利山さんが腕まくりをして逃げようとする韋駄天君にホースから水をかけた。

 マダニとか怖いからしょうがないよな。

 それにしてもこの山は不思議でいっぱいだな。流さんはその光景を苦笑しながら見ているだけだった。



次の更新は10日(火)です。

2000万PVありがとうございます! 何を書きますかねー


一番先頭にあります、「Web版と書籍版はところどころ違うのですーな解説(何」を更新しました。

4巻の内容情報を入れてあります。どうぞよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861337057957/episodes/16817330655646256273

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